最新の研究成果
腸内細菌が作り出す毒が大腸がんの引き金に? DNA損傷のメカニズムの一端を解明
2025年10月30日
- 理学研究科
- プレスリリース
ポイント
◇近年、腸内細菌が作り出す遺伝毒性※1物質のコリバクチンが、DNA鎖間架橋(ICL)※2を引き起こすことが大腸がんの原因ではないかと考えられ、注目されている。
◇日本人の大腸がん患者の腸内から取り出したコリバクチンを産生する大腸菌を用い、ICLが染色体異常の誘発や増殖の阻害を引き起こしているかを調査。
◇コリバクチン産生大腸菌はICLを修復できるヒト細胞株より、ICLを修復できないヒト細胞株に対して、高い遺伝毒性と細胞毒性※3を示した。
概要
ヒトの腸内には約1,000種類の細菌が生息し、善玉菌や悪玉菌などがお互いに関係を保ちながら腸内細菌叢を形成しており、地域や生活環境、食生活などに依存していることも知られています。近年、腸内細菌叢の一部の細菌が作り出すコリバクチンと呼ばれる遺伝毒性物質が、DNA鎖間架橋(ICL)を引き起こすことが大腸がんの原因ではないかと考えられ、注目されています。
大阪公立大学大学院理学研究科の川西 優喜教授、静岡県立大学、京都府立大学の共同研究グループは、日本人の大腸がん患者の腸内から取り出したコリバクチンを産生する大腸菌を用い、ICLが染色体異常の誘発や増殖の阻害を引き起こしているかを調べました。その結果、コリバクチン産生大腸菌はICLを修復できるヒト細胞株より、ICLを修復できないヒト細胞株に対して、高い遺伝毒性と細胞毒性を示すことが判明し、日本人由来大腸菌のコリバクチンの毒性にはICLが関与していることが示唆されました。今後、コリバクチン産生菌の除去などの新たな大腸がん予防策への貢献が期待されます。
本研究成果は、2025年9月22日に国際学術誌「Genes and Environment」にFeatured Articleとしてオンライン掲載されました。
細胞中に通常の核とは別に存在する小型の核(右上)をもつ細胞。DNAに傷があると細胞分裂の際に本来の核に取り込まれずに細胞質に残ることで生じる。遺伝毒性(DNA損傷)の指標に使用される。
<研究者からのコメント>
今日、日本で罹患数第1位のがんは大腸がんです。この研究はとても基礎的なものですが、大腸がんの予防に少しでも役立つことができれば嬉しく思います。コリバクチンの大腸発がんリスク評価の研究はまだまだこれからですが、それは、疫学研究と今回のような細胞レベルの研究などが補完し合いながら進んでいきます。ヘリコバクターピロリの除菌で胃がんが大きく減少したように、コリバクチン産生菌の除去で大腸がんが減少する時がくるかもしれません。
掲載誌情報
【発表雑誌】Genes and Environment
【論 文 名】DNA cross-link repair deficiency enhances human cell sensitivity to colibactin-induced genotoxicity
【著 者】Masanobu Kawanishi*, Osamu Tsubohira, Ai Ueshima, Yuuta Hisatomi, Yoshimitsu Oda, Michio Sato, Noriyuki Miyoshi, Michihiro Mutoh, Hideki Ishikawa, Keiji Wakabayashi, Takashi Yagi, Kenji Watanabe
【掲載URL】https://doi.org/10.1186/s41021-025-00339-7
資金情報
本研究は日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業基盤研究(S)22H04979、日本医療研究開発機構(AMED)革新的がん医療実用化研究事業からの支援を受けて実施しました。
用語解説
※1 遺伝毒性:DNAや染色体に作用し、遺伝情報に変化を生じさせる性質のこと。広義には次世代には伝わらないDNAや染色体の変化を誘発する性質も含み、体細胞では、がんの原因となる。
※2 DNA鎖間架橋:二本鎖DNAの鎖同士が分子架橋して共有結合でつながったDNA損傷のこと。
※3 細胞毒性:細胞に対して死、もしくは機能障害や増殖阻害の影響を与える性質のこと。
研究内容に関する問い合わせ先
大阪公立大学大学院理学研究科
教授 川西 優喜(かわにし まさのぶ)
TEL:072-254-9830
E-mail:kawanishi-m[at]omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
報道に関する問い合わせ先
大阪公立大学 広報課
担当:谷
TEL:06-6967-1834
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
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