最新の研究成果
犬の肝がん原因遺伝子を発見! 新たな治療法確立に期待
2025年11月18日
- 獣医学研究科
- プレスリリース
ポイント
◇犬の塊状肝細胞癌※1(HCC)と正常肝(NL)のRNAシーケンス※2を実施したところ、NLに比べてHCCでは119種類の遺伝子で発現量が低下、141種類の遺伝子で発現量が上昇。
◇遺伝子PRC1、CDCA3、CDC20は犬HCCの発症原因である可能性。
◇犬HCCにおいて制御性T細胞(Treg)※3の発現量の低下が明らかになり、Tregが腫瘍組織に入り込むことが病気の進み方や治療結果に影響を及ぼす可能性が示された。
概要
犬とヒトでは塊状肝細胞癌(HCC)の発症の仕組みや予後が異なるため、犬HCCにおける遺伝子異常はヒトとは違う可能性があります。ヒトHCCでは、さまざまな遺伝子や免疫細胞が発癌や予後に影響を及ぼしていることが報告されていますが、犬HCCについてはまだ明らかになっていません。
大阪公立大学大学院獣医学研究科の田中 利幸准教授らの研究グループは、14頭の犬HCCと4頭の犬正常肝(NL)のRNAシーケンスを実施したところ、NLに比べてHCCでは119種類の遺伝子で発現量が低下、141種類の遺伝子で発現量が上昇していることが分かりました。特に発現量が上昇した遺伝子PRC1、CDCA3、CDC20は犬HCCの発症原因であることが示唆されました。また、犬HCCにおいてTregの発現量の低下が明らかになり、Tregが腫瘍組織に入り込むことが病気の進み方や治療結果に影響を及ぼす可能性が示されました。本研究で特定した遺伝子をターゲットにして研究を進めることで、新たな治療法に結び付くことが期待されます。

本研究成果は、2025年11月10日に国際学術誌「BMC Veterinary Research」にオンライン掲載されました。
犬とヒトの肝細胞癌の挙動はなぜ違うのか?今回の結果で全てが分かったわけではありませんが、少しはその手がかりが得られたかもしれません。今後は、再発や転移を示す犬HCCにおいても、発現が異常な遺伝子を特定する研究などを進めたいと思います。
田中 利幸准教授掲載誌情報
【発表雑誌】BMC Veterinary Research
【論 文 名】PRC1, CDCA3, and CDC20 are upregulated and Treg numbers are decreased in canine massive hepatocellular carcinoma
【著 者】Toshiyuki Tanaka, Tomoki Motegi, Yasumasa Iimori, Hideo Akiyoshi
【掲載URL】https://doi.org/10.1186/s12917-025-05103-1
資金情報
本研究は、JSPS科研費(JP22K05991)の助成を受けて実施しました。
用語解説
※1 塊状肝細胞癌:犬の肝細胞癌はその形状から塊状、多結節型、びまん性に分類される。犬の肝細胞癌では塊状肝細胞癌が最も多く認められる。
※2 RNAシーケンス:次世代シーケンサー(NGS)を使用してRNAを読み取り、その配列情報を網羅的に解析する技術。この解析によって、どの遺伝子がどの程度活性化されているのかを把握できる。
※3 制御性T細胞(Treg):免疫抑制細胞の一種で、癌ではTregが増加することで、癌に対する正常な免疫応答が抑制されて、癌が増殖しやすい環境になる。
研究内容に関する問い合わせ先
大阪公立大学大学院獣医学研究科
准教授 田中 利幸(たなか としゆき)
TEL:072-463-5457
E-mail:t-tanaka[at]omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
報道に関する問い合わせ先
大阪公立大学 広報課
担当:谷
TEL:06-6967-1834
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
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