最新の研究成果

粘り強さと柔軟性に関与する脳内メカニズムを解明 - 強迫性障害の新たな治療法に繋がる可能性 -

2025年11月19日

  • 医学研究科
  • プレスリリース

ポイント

◇根気強さに関与するセロトニン3受容体の欠損により、認知的柔軟性が高まることを発見
◇強迫性障害の病態理解や新たな治療法の開発につながる可能性

概要

セロトニンは、睡眠や認知、情動など多様な脳機能に関与する神経伝達物質であり、その働きは複数の受容体によって制御されています。なかでもセロトニン3受容体は、近年の研究において「根気強さ」に関与することが示されていますが、その他の機能については十分に解明されていませんでした。

大阪公立大学大学院医学研究科脳神経機能形態学の中園 智晶特任助教(研究当時)と近藤 誠教授の研究グループは、セロトニン3受容体が認知機能においてどのような役割を果たしているかを明らかにするため、同受容体を欠損させたノックアウトマウスを用いて、オペラント条件づけ1による複数の行動実験を実施しました。その結果、ノックアウトマウスは報酬が得られなくなった状況では早期に行動を中止し、根気強さが低下する一方で、報酬を得るために行動を切り替える課題では、健常マウスよりも迅速に新しいルールに適応し、高い柔軟性を示しました。これは、セロトニン3受容体が「根気強さ」を促進する一方で「柔軟性」を抑制する可能性を示しています。本研究は、根気と柔軟性のバランスが崩れ、根気の方向へ過度に傾いた状態の強迫性障害の病態理解や、新たな治療法の開発につながることが期待されます。
本研究成果は、2025年10月27日に、国際学術誌『Behavioural Brain Research』にオンライン公開されました。

press_kondo_01

<近藤 誠教授・中園 智晶特任助教のコメント>

「根気」と「柔軟性」のバランスは誰にとっても重要であり、このバランスが崩れ、「根気」に偏りすぎた状態が強迫性障害(強迫症)と考えられます。強迫性障害の薬物療法では、セロトニンを増加させる選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)2が用いられますが、セロトニンと強迫性障害の関係は未だ十分に解明されていません。SSRIが効果を示さない患者に対しては、セロトニン3受容体を阻害する薬が有効な場合もあります。マウスの行動が教えてくれた知見が、強迫性障害のより良い治療へ繋がることを期待します。

掲載誌情報

【発表雑誌】Behavioural Brain Research
【論 文 名】Deletion of the 5-HT3A receptor reduces behavioral persistence and enhances flexibility
【著  者】Tomoaki Nakazono, Makoto Kondo

【掲載URL】https://doi.org/10.1016/j.bbr.2025.115896

用語解説

※1 オペラント条件づけ:動物が特定の行動(本研究では左もしくは右の穴に鼻先を入れる行動)をしたら報酬(エサ)を与えることによって、その反応を訓練させる実験手続き。

※2 選択的セロトニン再取り込み阻害薬(Selective Serotonin Reuptake Inhibitor:SSRI):  セロトニンの再取り込みを選択的に阻害することで、セロトニンの濃度を上昇させる薬。うつ病やPTSD、強迫性障害などの精神疾患の治療に用いられている。

資金情報

本研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業(22K11498, 23K14674)、AMED(JP20lm0203007, JP21wm0525026)、大阪難病研究財団、内藤記念科学振興財団、ブレインサイエンス振興財団、第一三共生命科学研究振興財団からの助成を受けました。

研究内容に関する問い合わせ先

大阪公立大学大学院医学研究科
脳神経機能形態学
教授 近藤 誠(こんどう まこと)
TEL:06-6645-3705
E-mail:mkondo[at]omu.ac.jp

※[at]を@に変更してください。

報道に関する問い合わせ先

大阪公立大学 広報課
担当:久保
TEL:06-6967-1834
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp

※[at]を@に変更してください。

該当するSDGs

  • SDGs03