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AIでブラックホールの謎に挑む! 重力波パラメータ推定における機械学習の信頼性向上に貢献

2025年11月20日

  • 理学研究科
  • プレスリリース

ポイント

◇ 重力波信号の解析の従来手法は膨大な計算コストを要するため、近年では機械学習を用いて解析手法の高速化が進められているが、応用に向けては機械学習の信頼性に対する懸念が残っている。

◇ 機械学習モデルが予測時にどの領域に注目したかを可視化するAttention Mapを導入することで、重力波信号から連星ブラックホール1のチャープ質量2と有効スピン3を推定するモデルを構築。

◇ 観測データに含まれる突発的雑音(グリッチ)が推定結果に与える影響をAttention Mapで評価。

概要

重力波は、時空の歪みが光速で伝わる現象で、2015年9月に初めて連星ブラックホール合体から検出されて以来、200件以上のイベントが報告されています。重力波信号の解析により、ブラックホールの質量や自転などの物理量(パラメータ)を推定できますが、従来手法は膨大な計算コストが課題でした。近年、機械学習を用いて推定を高速化する研究が進み、精度を保ちながら効率化できる可能性が示されていますが、機械学習モデルを使用して得られた結果の信頼性向上が重要です。

大阪公立大学大学院理学研究科の岩永 響生氏(研究当時、大学院生)、伊藤 洋介准教授らの研究グループは、機械学習モデルが予測時にどの領域に注目したかを可視化するAttention Mapを導入することで、重力波信号から連星ブラックホールのチャープ質量と有効スピンを推定するモデルを構築し、それぞれの注目領域を比較しました。さらに、観測データに含まれる突発的雑音(グリッチ)への影響も評価し、影響が大きい場合に注目度が高まる傾向を確認しました。このモデルは理論的に重要とされる信号領域に注目しており、物理的に意味のある情報に基づく推定の可能性が示されました。また、Attention Mapにより、推定結果の信頼性を判断できることが分かりました。本研究は、機械学習の利便性だけでなく信頼性の観点を重視し、今後は定量的評価や雑音除去後の適用など、さらなる発展が期待されます。

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機械学習モデルを用いた重力波パラメータ推定に関する概念図

本研究成果は、2025年10月9日に国際学術誌「Physical Review D」にオンライン掲載されました。

物理学の分野などで敬遠されがちな機械学習の信頼性向上に貢献できたことを嬉しく思います。機械学習は計算効率が高いというメリットがある一方で、判断根拠が明確でないので、答えが得られるまでのプロセスが重要視される物理学の分野などではこの技術の導入に批判的な意見をもつ研究者が多くいます。この研究では機械学習も一定の信頼性をもつ可能性を示すことができました。この研究から、重力波の分野で機械学習の信頼性に関する議論がより活発になることを願っています。

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岩永 響生氏

掲載誌情報

【発表雑誌】Physical Review D
【論 文 名】Enhancing the reliability of machine learning for gravitational wave parameter estimation with attention-based models
【著   者】岩永 響生、松山 まほろ、伊藤 洋介

【掲載URL】 https://doi.org/10.1103/blfk-7k9f

資金情報

本研究は日本学術振興会科学研究費助成事業(課題番号:20H05639)の助成を受けたものです。

用語解説

※1 連星ブラックホール:一般相対性理論によると、質量の大きい星は、その一生の最後に超新星爆発を起こし、ブラックホールと呼ばれる天体を残すことがある。ブラックホールは、一度その中に入ると光でさえも外へ逃げ出すことのできない時空領域と定義されており、直接観測することはできないが、重力波など外部に及ぼす影響で存在を確認することができる。多くの、とくに質量の大きい星は連星として生まれ、その2つがともにブラックホールになると連星ブラックホールになる。連星ブラックホールは強力な重力によって互いの周りを高速に軌道運動し、重力波を放射する。重力波は連星ブラックホールの軌道運動のエネルギーを抜き去るため、2つのブラックホールは次第に近づき、最終的に合体する。この現象は連星ブラックホール合体と呼ばれる。

※2 チャープ質量:2つのブラックホールからなる連星系を考え、2つのブラックホールは連星系の重心の周りを運動しているとする。一般相対性理論によればこのような連星系からは重力波が放出される。重力波はエネルギーを運び去るので、連星系は軌道運動のエネルギーを失い、次第に互いの方へと近づいていく。軌道半径が小さくなると軌道周期は短くなるが、その短くなり方を特徴づける主なパラメータがチャープ質量である。チャープ質量は、2つのブラックホールの質量から計算することができ、ブラックホールの質量が大きいほど、チャープ質量も大きくなる傾向がある。

※3 有効スピン:ブラックホール連星系において、各々のブラックホールの自転角運動量の、連星軌道面に垂直な方向の成分を考える。これら2つの量について、ブラックホールの質量に応じた重みをつけた平均を求めたものを有効スピンと呼ぶ。有効スピンが大きいということは、少なくとも質量の大きなブラックホールの自転角運動量の軌道面に垂直な成分は大きいことになる。有効スピンは、天体の質量に次いで、重力波の時間発展を特徴づける主要なパラメータである。

研究内容に関する問い合わせ先

大阪公立大学大学院理学研究科
准教授 伊藤 洋介(いとう ようすけ)
TEL:06-6605-2812
E-mail:yousuke.itoh[at]omu.ac.jp

※[at]を@に変更してください。

報道に関する問い合わせ先

大阪公立大学 広報課
担当:谷
TEL:06-6967-1834
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp

※[at]を@に変更してください。

該当するSDGs

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