最新の研究成果
AIでウシの体外受精の効率化へ -卵子の個性に合わせた培養法で胚の発生率向上-
2025年11月26日
- 獣医学研究科
- プレスリリース
ポイント
◇AIを活用して黒毛和種牛の卵子を、成熟スピード(核成熟速度、Nuclear maturation speed、NMS※1)が早い群と遅い群に分類。
◇ 成熟が遅い群では、標準の培養時間よりも4時間長く培養することで、胚盤胞※2の発生率が向上。
◇ 一方で、両群ともに培養時間が長くなると、胎子の元になる細胞(内部細胞塊※3)の品質に影響を与える可能性を示唆。
概要
ウシの体外受精は、畜産業の生産性向上に欠かせない重要な技術です。しかし従来の受精方法は、卵子の成熟スピード(NMS)に個体差があるにもかかわらず、すべての卵子を同じ時間で一律に培養していました。そのため、成熟が遅い卵子は十分に準備が整わないまま受精することになり、胚の発生率が低下する可能性がありました。
大阪公立大学大学院獣医学研究科の古山 敬祐准教授とHO, Chia-Tang博士(研究当時、大学院生)らの研究グループは、AIによるNMS予測モデルを活用し、黒毛和種牛の卵子を成熟が速い群と遅い群に分類。培養時間を変えて比較した結果、成熟が遅い群では、一般的な培養時間より4時間長く培養することで胚盤胞の発生率が改善し、速い群と同等の水準に達することを明らかにしました。
本研究は、AIを活用して卵子の個性を見極め、最適な培養時間を提供する個別化培養が、ウシの体外受精効率を高める新たな技術であることを示唆しています。

本研究成果は、2025 年11月18日に国際学術誌「Molecular Reproduction and Development」にオンライン公開されました。
卵子には独自のリズムがあり、画一的な培養ではなく個々の個性に合わせたサポートが重要です。発生率と遺伝子発現のズレは、一見矛盾しますが、生命のメカニズムの奥深い複雑さを示しています。この発見を元に、今後さらに培養条件を最適化し、ウシの胚生産の効率化を目指しながら、この現象を深く探求していきたいです。

古山 敬祐准教授、HO, Chia-Tang博士
掲載誌情報
【発表雑誌】Molecular Reproduction and Development
【論 文 名】Extended in vitro maturation enhances oocyte developmental competence but alters gene expression in bovine embryos derived from oocytes with slow-predicted nuclear maturation speed
【著 者】Thomas Chia-Tang Ho, Takashi Tanida, Takashi Fujii, Keisuke Koyama
【掲載URL】 https://doi.org/10.1103/blfk-7k9f
資金情報
本研究は、JSPS科研費(課題番号:JP20K15681、JP24K09270)、および笹川科学研究助成(課題番号:2024-5036)の支援を受けて実施されました。
用語解説
※1 核成熟速度(nuclear maturation speed、NMS):卵子が第二減数分裂中期まで到達するまでのスピード。卵子ごとに違いがある。
※2 胚盤胞:受精卵が分裂を進め、着床可能な状態になったもの。ウシでは受精から約7~8日目でこの状態になり、子宮への移植に用いられる。
※3 内部細胞塊:受精卵が胚盤胞という段階に発達したときに現れる細胞の集まりで、将来的に胎子の体を形成する部分。
研究内容に関する問い合わせ先
大阪公立大学大学院理学研究科
准教授 古山 敬祐(こやま けいすけ)
TEL:072-463-5354
E-mail:koyama-keisuke[at]omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
報道に関する問い合わせ先
大阪公立大学 広報課
担当:久保
TEL:06-6967-1834
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
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