最新の研究成果

高耐久アモルファスベース複合正極を新開発 ─電子顕微鏡で“劣化の正体”を視覚化し、設計指針を確立─

2025年12月9日

  • 工学研究科
  • プレスリリース

概要

一般財団法人ファインセラミックスセンター(JFCC)の野村優貴博士、山本和生博士、平山司博士と大阪公立大学の平岡大幹氏(研究当時:博士前期課程2年)、本橋宏大助教、作田敦准教授、林晃敏教授らの研究グループは共同で、全固体Li電池※1向けのアモルファスベース複合正極※2を開発しました。この材料は、従来のLi過剰系正極が抱えていた“急速な劣化”を大幅に抑制できることが分かりました。さらに、JFCCが開発してきたその場電子顕微鏡技術※3を組み合わせることで、充放電中のナノスケールの構造変化・劣化メカニズム・イオン移動の様子を直接観察することにも成功しました。

電気自動車の普及にともない、電池にはより高いエネルギー密度と耐久性が求められています。有望な正極材料であるLi過剰系正極※4は高容量を示す一方で、充放電を繰り返すと結晶構造が崩壊し、急速に劣化することが課題でした。本研究では、Li過剰系正極材料(LiNiO2–Li2MnO3)にLi2SO4を組み合わせたアモルファスベース複合材料の新規合成方法を開発し、本材料の耐久性を大幅に向上することに成功しました。また、JFCCが開発してきたその場走査透過電子顕微鏡法※5、電子エネルギー損失分光法※6、ナノビーム電子回折法※7を組み合わせることで、材料中の結晶・アモルファス相の分布と充放電中のLiイオンの移動、Mn・Niの局所電子状態の変化をナノスケールで可視化することにも成功しました。その結果、MnとNiの偏析とそれにともなう材料中の高酸化状態がアモルファスベース複合正極材料の劣化要因であることが判明しました。

特に重要な発見として、①アモルファスベース複合正極は柔軟な膨張収縮が可能であり、材料中のクラック・界面剥離が生じにくいため耐久性が優れること、②材料中の数10ナノメートルの大きなLi–Ni–Oナノ粒子が劣化を促進すること、③材料中の結晶相とアモルファス相の両方が電気化学反応に寄与し、高容量を発現していること、が挙げられます。今回得られた知見は、高容量・高耐久な全固体Li電池の設計指針を導くものです。材料内でそれぞれの相がどのような役割を果たすのかが明確化されたことで、今後はより効率的に新材料を開発できる見込みです。

本成果は2025年11月24日に米国化学会誌「ACS Nano」にオープンアクセスで掲載されました。

掲載誌情報

【発表雑誌】ACS Nano
【論 文 名】Enhancing the Cycling Stability of Amorphous-Based LiNiO2–Li2MnO3–Li2SO4 Positive Electrodes: Insights from In Situ Transmission Electron Microscopy
【著  者】Yuki Nomura,Daiki Hiraoka,Kazuo Yamamoto,Tsukasa Hirayama,Kota Motohashi,Atsushi Sakuda,and Akitoshi Hayashi

【掲載URL】https://doi.org/10.1021/acsnano.5c17388

資金情報

本研究の一部は、文部科学省特色ある共同利用・ 共同研究拠点支援プログラム(JPMXP0723833161)、日本学術振興会・科研費 基盤研究(A)「電子顕微鏡による全固体電池固固界面イオンダイナミクス計測」(23H00241)、若手研究「全固体Li電池の低ドーズオペランド透過電子顕微鏡法の開発」(23K13837)、基盤研究(B)「透過電子顕微鏡を用いたイオン拡散機構の解析」(25K00078)、NEDO「次世代全固体蓄電池材料の評価・基盤技術開発 (SOLiD-Next,JPNP23005)」、安全保障技術研究推進制度「AI的画像解析によるオペランド電子顕微鏡計測技術に関する研究」(PJ004596)、(公財)風戸研究奨励会の研究助成支援を受けて実施されたものです。

用語解説

※1 全固体Li電池:液体の電解質ではなく、無機固体の電解質を用いるLi電池。電池全体が固体の材料で構成される。

※2 アモルファスベース複合正極:ナノ粒子とアモルファスのマトリックス構造を持ち、柔軟な体積膨張や低い界面抵抗といった特徴から、高い耐久性が期待される正極材料。

※3 その場電子顕微鏡法:測定対象が実動環境下でその機能を発現する過程をその場で電子顕微鏡観察する手法。

※4 Li過剰系正極:遷移金属酸化物に通常より多くのLiを含む材料であり、酸素の酸化還元反応を利用して高容量を実現する正極。高いエネルギー密度が得られる一方、構造不安定性や材料劣化が課題である。

※5 走査透過電子顕微鏡法:細く絞った電子線で試料を走査し、散乱された電子を検出器で捉えることで、高い空間分解能で材料の構造を可視化する技術。

※6 電子エネルギー損失分光法:試料と相互作用してエネルギーを損失した電子を計測し、材料の組成・電子状態を解析する手法。透過電子顕微鏡を用いた分析手法の一つ。

※7 ナノビーム電子回折法:細く絞った電子線で試料を走査し、各点での電子回折図形を取得する手法。高い空間分解能で材料の結晶構造を解析することができる。透過電子顕微鏡を用いた分析手法の一つ。

研究内容に関する問い合わせ先

大阪公立大学大学院工学研究科
准教授 作田 敦(さくだ あつし)
TEL:072-254-9334
E-mail:saku[at]omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。

報道に関する問い合わせ先

大阪公立大学 広報課
担当:久保
TEL:06-6967-1834
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。

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