最新の研究成果

有機太陽電池材料の新たな知見 ~ナノ構造の違いが光による電荷の動きに影響を及ぼす~

2025年12月10日

  • 工学研究科
  • プレスリリース

ポイント

◇p型有機半導体・n型有機半導体1を一体化した単一分子を開発。単一分子の自己組織化2により、分子中の両成分が分かれて積層し p/nヘテロ接合3が形成できることを示した。

◇溶媒や温度条件に応じてナノ粒子状J型自己組織体とナノファイバー状H型自己組織体を作り分けることができる。

◇J型自己組織体では、光励起で生じる電荷キャリアの生成量と移動度を反映した過渡伝導度4がH型自己組織体の約2倍に達し、より高い電荷輸送特性を持つことが示唆された。

概要

有機薄膜太陽電池は軽量で柔軟かつ加工が容易なため、さまざまな応用が期待されています。発電には光で生じた電荷(ホールと電子)を効率よく分離して取り出す必要があり、その役割を担うのがp型有機半導体・n型有機半導体と、両者が接するp/nヘテロ接合界面です。その界面と電荷移動パスを適切に制御することが重要なため、p型とn型の半導体成分を同一分子に組み込み、自発的な集積(自己組織化)によりp/nヘテロ接合を形成させる手法が注目されています。しかし、単一分子の自己組織化は複雑で、最適なナノスケールのp/nヘテロ接合を得ることが難しいという課題がありました。

大阪公立大学大学院工学研究科の前田 壮志准教授、八木 繁幸教授、大阪大学大学院工学研究科の佐伯 昭紀教授、インド・SRM科学技術大学のAyyappanpillai Ajayaghosh教授らの研究グループは、p型半導体特性をもつスクアレン色素とn型半導体特性をもつナフタレンジイミドを一体化した単一分子を開発し、この分子の自己組織化によりp/nヘテロ接合が形成できることを示しました。さらに、溶媒や温度条件に応じてナノ粒子状J型自己組織体とナノファイバー状H型自己組織体を作り分けられることを明らかにしました。これら2種類のナノ構造はFP-TRMC法で測定される過渡伝導度に大きな違いを生みました。特にJ型自己組織体では、その光電流応答がH型自己組織体の約2倍に達し、より高い電荷輸送特性を持つことが示唆されました。本研究結果は、単一分子の自己組織化が生み出すナノ構造の違いが光電流応答を左右することを示しており、自己組織化によりp/nヘテロ接合を形成する有機薄膜太陽電池に関する議論をさらに発展させる契機となることが期待されます。

本研究成果は、2025年10月16日に国際学術誌「Applied Microbiology and Biotechnology」にオンライン掲載されました。

pr20251210_maeda01

溶媒条件に応じて形成されるナノ粒子状J型およびナノファイバー状H型集合体※5の模式図

有機分子が自発的に集まって大きな構造へ成長する自己組織化は、溶媒条件のわずかな違いで集合体の構造や特性が大きく変化する点に魅力があります。こうしたボトムアップで形成されるナノ構造と機能の関係に関する知見が、分子レベルでp/nヘテロ接合を創出するための新しい着想につながり、将来の有機薄膜太陽電池材料の発展を後押しすると期待しています。

pr20251210_maeda

前田 壮志准教授

掲載誌情報

【発表雑誌】Angewandte Chemie International Edition
【論 文 名】Solvent-Controlled Supramolecular Polymerization and Morphology-Depended Photoconductivity Modulation in a Squaraine-Naphthalene Diimide-Squaraine Bulk p/n Heterojunction
【著  者】Takeshi Maeda, Naoki Okamura, Satyajit Das, Takuo Ishida, Hideto Kotera, Ayyappanpillai Ajayaghosh, Akinori Saeki, Shigeyuki Yagi
【掲載URL】https://doi.org/10.1002/anie.202516556

資金情報

本研究は、DST–JSPS共同研究プログラム、科研費若手研究(A(課題番号:16H06048)、基盤研究(B(課題番号:24K01573)、CSIR(インド科学産業研究評議会)Bhatnagarフェローシップ(課題番号:CSIRHRD/BFS/2024/03/03)、ENEOS東燃ゼネラル研究・開発奨励・奨学財団、池谷科学技術振興財団などの支援の下で実施されました。

用語解説

※1 p型有機半導体・n型有機半導体:有機半導体とは、導体と絶縁体の中間の電気伝導性をもつ有機化合物を指す。p型では電荷の一種である正孔(ホール)が動き、n型では電子が動く。

※2 自己組織化:分子が溶媒や温度などの条件に応じて自発的に集合し、秩序だった構造を形成する現象。外部からの加工なしにナノ構造が得られる点が特徴。

※3 p/nヘテロ接合:p型半導体とn型半導体が接してできる界面。光によって生じた電荷(正孔と電子)を効率よく分離するために重要な役割を担う。

※4 過渡伝導度:単位系はφΣμ。時間分解マイクロ波伝導度(FP-TRMC)法で得られる指標で、光励起で生成したキャリアの量(量子収率 φ)とキャリア移動度の総和(Σμ)の積に比例する。材料が光照射下でどれだけ効率よく電荷を運べるかを表す。

※5 集合体:分子が集合したときの積層様式を指す用語。J型は分子がずれて積層しており、単分子の場合より長波長領域に電子吸収を示す。H型は分子がぴったりと重なるように積層しており、短波長側に電子吸収を示す。

研究内容に関する問い合わせ先

大阪公立大学大学院 工学研究科
准教授 前田 壮志(まえだ たけし)
TEL:072-254-9329
E-mail:tmaeda[at]omu.ac.jp

※[at]を@に変更してください。

報道に関する問い合わせ先

大阪公立大学 広報課
担当:谷
TEL:06-6967-1834
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp

※[at]を@に変更してください。

該当するSDGs

  • SDGs04
  • SDGs09
  • SDGs17