最新の研究成果
~診断困難な胸膜疾患の診断確定に新たな選択肢~局所麻酔下による低侵襲な手法の有用性を検証
2025年12月16日
- 医学研究科
- プレスリリース
ポイント
◇従来は全身麻酔下での手術が必要だった胸膜中皮腫※1の確定診断が、局所麻酔下の胸腔鏡検査で実施できる可能性が示された。
◇ クライオプローブ※2や高周波ナイフ※3などの新しい器具を用いることで、局所麻酔下胸腔鏡検査における脂肪組織を含む胸膜全層の採取(FTB)が可能に。
◇ 診断精度は96.4%と高く、重篤な合併症も認められず、安全性も確認された。
概要
胸膜中皮腫は予後が特に悪く、早期発見と正確な診断が極めて重要です。しかし、良性の非特異的胸膜炎との鑑別が難しく、従来は全身麻酔下での手術による検査が必要でした。そのため、高齢者や全身状態の悪い患者にとっては身体的負担が大きく、診断が困難なケースも少なくありませんでした。
大阪公立大学大学院医学研究科呼吸器内科学の上田 隆博大学院生(博士課程4年)と中井 俊之病院講師らの研究グループは、局所麻酔下で実施可能な手術である胸腔鏡検査において、胸膜全層の採取(full-thickness biopsy:FTB)を試み胸膜中皮腫もしくは非特異的胸膜炎と診断された28症例の診断精度および安全性を解析しました。その結果、診断精度は96.4%と高く、重篤な合併症も認められませんでした。
本研究は、局所麻酔下胸腔鏡によるFTBが、胸膜中皮腫の低侵襲かつ高精度な診断法として有用であることを示し、これまで診断が困難だった患者にも、適切な治療へとつなげる新たな選択肢を提供できる可能性があります。
本研究成果は、2025年12月10日に、国際学術誌「BMC Pulmonary Medicine」にオンライン掲載されました。
日常診療の現場では、精査を重ねても診断が確定せず、治療方針の決定に苦慮する患者さんにしばしば直面します。本研究では、そのような診断困難な疾患に対して、新たな生検技術を用いることで確定診断に至る可能性があることを示しました。本研究が、このような日常診療における課題の解決に向けた一助となることを願っています。

上田 隆博大学院生
掲載誌情報
【発表雑誌】BMC Pulmonary Medicine
【論 文 名】The usefulness of full-thickness biopsy during semi-rigid pleuroscopy for differentiating between malignant pleural mesothelioma and non-specific pleurisy
【著 者】Takahiro Ueda, Toshiyuki Nakai, Sayaka Tanaka, Hiroaki Nagamine, Atsushi Miyamoto, Misako Nishimura, Yoshiya Matsumoto, Kanako Sato, Kazuhiro Yamada, Tetsuya Watanabe, Kazuhisa Asai, Yuji Matsumoto, Yu Mikami and Tomoya Kawaguchi
【掲載URL】 https://doi.org/10.1186/s12890-025-03982-6
用語解説
※1 胸膜中皮腫:肺を包む膜(胸膜)にできる悪性腫瘍の一種で、主にアスベスト(石綿)曝露が原因とされている。
※2 クライオプローブ:極低温を利用して組織を凍結・切除する医療器具
※3 高周波ナイフ:高周波電流を用いて組織を切開しながら止血も行える医療用メス。
研究内容に関する問い合わせ先
大阪公立大学大学院医学研究科呼吸器内科学
大学院生 上田 隆博(うえだ たかひろ)
病院講師 中井 俊之(なかい としゆき)
TEL: 06-6645-3916
E-mail:w23634p[at]omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
報道に関する問い合わせ先
大阪公立大学 広報課
担当:久保
TEL:06-6967-1834
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
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