最新の研究成果

画素数を従来から1000倍アップ! 超伝導状態で4億画素の撮像に成功

2025年12月18日

  • 工学研究科
  • プレスリリース

ポイント

◇超伝導検出器1のイメージング素子の大画素化には、素子を極低温に冷却すること、ピクセル数を増やしピクセルの均一性を保つこと、読出し線の数が増える対策として一つの線に複数の信号を運ばせる信号多重化回路技術が必要になることなどが課題である。

◇新しい超伝導検出器の電流バイアス運動インダクタンス検出器(CB-KID)と、30ps(ビコ秒=10-12秒)の高分解能の時間デジタル変換器(TDC)2を装備した読み出し回路を開発し、4億画素イメージングの実証に成功。

概要

超伝導検出器は高感度に微弱な信号を検出できるため、天文学や医療などさまざまな分野で利用されており、特にイメージングへの応用研究が盛んに行われてきました。超伝導を用いたイメージング素子の高性能化と実用化には、超伝導状態を維持するために素子全体を極低温に冷却する必要があります。また、高解像度化のためピクセル数を増加させますが、各ピクセルの均一性の確保も重要です。さらに、ピクセル数増加には読出し線の数の増加も伴うため、一つの線で複数の信号を運ぶ信号多重化3回路技術の導入が不可欠です。

大阪公立大学 大学院工学研究科の石田 武和客員教授、ヴテダン客員研究員(ベトナム・ホーチミン市技術教育大学 講師、J-PARCセンター外来研究員)、小嶋 健児客員研究員(カナダ国立粒子加速器研究所 上席研究員)、小山 富男客員研究員、および研究基盤共用センターの宍戸 寛明教授らの研究チームは、課題を克服した新しいタイプの超伝導検出器の電流バイアス運動インダクタンス検出器(CB-KID)と、30ps(ビコ秒=10-12秒)の高分解能の時間デジタル変換器(TDC)を装備した読み出し回路を開発し、4億画素イメージングの実証に成功しました(図1)。実証では、大阪公立大学、J-PARCセンター、その他機関による過去の共著論文で発表したデータを活用しました。

本研究成果は、2025年11月25日に国際学術誌「AIP Advances」にFeatured Article(注目論文)としてオンライン掲載されました。また、AIPのScilight(科学ハイライト)対象論文にも選出され、インタビュー解説記事が同時にオンライン掲載されました。

※氏名の漢字に誤りがありましたことをお詫びし、訂正いたします(12月19日訂正)

誤:小山 富夫客員研究員
正:小山 富男客員研究員

pr20251218_ishida01CB-KIDによる4億画素の撮像

1マイクロメートル(㎛)未満のピクセルで15mm角のCB-KID素子で計測した4億画素イメージング実証。

超伝導検出器は先端分野で大活躍していますが、大画素撮像に向けて極低温動作環境への熱流入が大きな壁でした。新原理の超伝導検出器CB-KIDは読出し線は4本で良いので、遅延時間法と高速読出回路を組み合わせ、これまでの世界記録を1000倍も上回る大画素化に成功しました。この論文は、アメリカ物理学協会(AIP)が発行する30誌以上の学術誌の中から科学ハイライト論文として選出され、著者インタビュー記事も出版されました。本研究成果がフォトニクス分野だけではなく幅広い分野で活発に利用されることを期待しています。

pr20251218_ishida02

石田 武和客員教授

掲載誌情報

【発表雑誌】AIP Advances 15, 115134 (2025)
【論 文 名】400-milion-pixel superconducting delay-line camera with 30-ps readout circuit
【著  者】Takekazu Ishida, Hiroaki Shishido, The Dang Vu, Kenji M Kojima, and Tomio Koyama
【掲載URL】https://doi.org/10.1063/5.0292145

Scilight インタビュー解説記事】
https://pubs.aip.org/aip/sci/article/2025/48/481105/3373313/Ultrafast-readout-circuit-enables-100-million

資金情報

本研究は、科学研究費補助金基盤研究(A)(JP16H02450、JP21H04666)、科学研究費補助金若手研究(JP21K13566、JP23K13690)、科学研究費補助金基盤研究(C)(JP22K04246)、J-PARCプロジェクト研究(2024P0501)の助成を得て実施されました。

用語解説

※1 超伝導検出器:極低温で動作し、超伝導状態の物質を利用して微弱な信号(光子、粒子、熱など)を高感度で検出する装置。特徴:高感度・低雑音(電気抵抗がゼロのため、微小なエネルギー変化も検出可能)・応答速度が速い(ナノ秒〜マイクロ秒単位での応答が可能)。用途:天文学(X線・赤外線観測)、量子情報、医療画像、粒子物理など。代表的な種類には、超伝導転移端センサー(TES)や超伝導ナノ細線単一光子検出器(SNSPD)がある。

※2 時間デジタル変換器(TDC):時間間隔をデジタル値に変換する回路で、2つの信号間の時間差を高精度に測定するために使う。特徴:高分解能(ピコ秒(10-12秒)単位の時間差を測定可能。用途:粒子検出器、ライダ(LiDAR)、TOF(Time-of-Flight)測距、医療用イメージングなど。動作原理はスタート信号とストップ信号の間の時間をカウントし、デジタル値として出力する。アナログ信号の時間情報をデジタル処理に活かすための重要な技術である。

研究内容に関する問い合わせ先

大阪公立大学工学研究科 量子放射線系専攻
客員教授 石田 武和(いしだ たけかず)
TEL:072-254-9260
E-mail:ishida.takekazu[at]omu.ac.jp

※[at]を@に変更してください。

報道に関する問い合わせ先

大阪公立大学 広報課
担当:谷
TEL:06-6967-1834
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp

※[at]を@に変更してください。

該当するSDGs

  • SDGs04
  • SDGs09
  • SDGs17