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ナノ流体デバイス×ナノポアが次世代の分析技術を拓く ~1分子計測の実用化に向けた新たなロードマップを提示~

2025年12月19日

  • 工学研究科
  • プレスリリース

ポイント

◇ナノポア技術はナノメートルサイズの孔を用いて1分子ごとの解析が可能な技術で、実用化が進んでいる。

◇ナノ流体デバイスはナノメートルサイズの流路をもつ分析チップで、分子の移動速度や流れを精密に制御できる。

◇ナノポアを利用した精密測定の実用化にはいくつかの課題があり、その解決にはナノ流体デバイスとの統合が有効と考え、最新の知見を総説論文として発表。

概要

ナノポアは、ナノメートル(1 mの10億分の1)サイズの孔(ポア)を通過するDNA やタンパク質などの分子の電流変化を検出して、種類や配列を解析する技術です。実用化も進んでいますが、分子が高速に通過して十分に観察できなかったり、小さな雑音(ノイズ)が入るなどの課題解決が望まれています。一方、ナノ流体デバイスは、ナノメートルサイズの流路をもつデバイスのことで、液体や分子を狭い空間で制御することが可能です。

ナノ流体デバイスを長年研究している大阪公立大学大学院工学研究科の許 岩教授と、ナノポアを専門としているスイス University of FribourgのMichael Mayer 教授らの国際共同研究グループは、ナノポア技術の課題解決にはナノ流体デバイスとの統合が有効と考え、最新の知見を総説論文として発表しました。本総説では、ナノポア技術にナノ流体デバイスを取り入れることにより、医療や環境分析に求められる精密な計測性能を実用化レベルに高められると提言しています。また、固体・生体・ハイブリッド型ナノポア、AI解析、統合技術が、これまでどのように進展してきたかを体系的に整理し、分子の通過速度制御や高スループット化の実現につなげる方向性を示しました。

本研究成果は、2025年11月11日に国際学術誌「TrAC Trends in Analytical Chemistry」にオンライン掲載されました。

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ナノポアとナノ流体デバイスの融合は、これまで困難だった高速・高精度・高感度測定を同時に実現します。今回の総説は、この新たな研究領域の方向性を示す重要な一歩です。

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許 岩教授

掲載誌情報

【発表雑誌】TrAC Trends in Analytical Chemistry (IF: 12.0)
【論 文 名】Nanopore Sensing: Current Progress and Future Challenges Tackled by Nanofluidic Devices
【著  者】Wachara Chanakul, Nattapong Chantipmanee, Matthieu Sandell, Rebecca An, Michael Mayer*, Yan Xu*

【掲載URL】https://doi.org/10.1016/j.trac.2025.118541

資金情報

本研究は、科学研究費補助金 学術変革領域研究(A)(課題番号:21H0523)、基盤(A) (課題番号:21H04640)、特別研究員奨励費(課題番号:23KF0274、24KF0160)、新学術領域研究(課題番号:19H04678)、スイス国立科学財団(SNSF)(課題番号:200020_197239; NCCR Bio-Inspired Materials)、アドルフ・メルクル財団(Adolphe Merkle Foundation)、タイ王国科学技術人材育成・推進プロジェクト(課題番号:DPST532133)の支援を受けて実施しました。

用語解説

※ 高スループット:多数の試料を短時間で同時に処理・測定できる能力を指す。診断技術や創薬研究において重要な性能。

研究内容に関する問い合わせ先

大阪公立大学工学研究科
教授 許 岩(しゅう いぇん)
TEL:072-254-7813
E-mail:xuy[at]omu.ac.jp

※[at]を@に変更してください。

報道に関する問い合わせ先

大阪公立大学 広報課
担当:谷
TEL:06-6967-1834
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp

※[at]を@に変更してください。

該当するSDGs

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