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有機ホウ素錯体の蛍光色変化を超高圧下で観測 ~分子間距離と分子内相互作用が要因と判明~

2025年12月22日

  • 工学研究科
  • プレスリリース

ポイント

◇分子内π-π相互作用1が、圧力に対する蛍光色の可逆的変化(ピエゾフルオロクロミズム(PFC)2)に与える影響を調べるため、シクロファン3部位をもつ有機ホウ素錯体pCP-HpCP-iPrの単結晶をダイヤモンドアンビルセル(DAC)4を用いて超高圧に加圧し、PFC挙動を解析。

pCP-HpCP-iPrのPFC挙動は似ていたが、その圧力依存性の発現機構は全く異なることが判明。

◇X線結晶構造解析5により、PFC挙動は、pCP-Hでは分子間距離の変化が主要因であるのに対し、pCP-iPrでは分子間距離の変化だけでなく、シクロファン部位のベンゼン環同士の距離が縮むことによる分子内相互作用も要因であることが判明。

概要

ピエゾフルオロクロミズム(PFC)は、外部からの圧力や機械的な刺激により物質の蛍光色が可逆的に変化する現象のことで、圧力センサーやメモリーデバイスなどへの応用が期待されています。

大阪公立大学大学院工学研究科の入井 駿大学院生、大垣 拓也特任助教、松井 康哲准教授、池田 浩教授、兵庫県立大学大学院理学研究科の小澤 芳樹准教授、阿部 正明教授らの共同研究グループは、分子内π-π相互作用がPFCに与える影響を調べるため、二階建て分子構造のシクロファン部位をもつ有機ホウ素錯体pCP-HpCP-iPrの単結晶をダイヤモンドアンビルセル(DAC)を用いて加圧し、PFC挙動を解析しました。その結果、両者のPFC挙動は似ていましたが、その圧力依存性の発現機構は全く異なることが分かりました。また、X線結晶構造解析により、蛍光色の変化は、pCP-Hでは分子間距離の変化が主要因であるのに対し、pCP-iPrでは分子間距離の変化だけでなく、シクロファン部位のベンゼン環同士の距離が縮むことによる分子内相互作用も要因であることが判明しました。これにより、シクロファン部位がバネのように伸縮し発光色を制御する新しい機構が明らかになりました。単分子で機能するPFC材料設計への貢献が期待されます。

本研究成果は、2025年10月20日に国際学術誌「Journal of Materials Chemistry C」 にオンライン掲載されました。

pr20251222_ikeda01図 本研究で合成した2種類の有機ホウ素錯体と
それらの結晶への加圧による蛍光挙動の変化

有機ホウ素化合物は発光材料としても有用ですが、その結晶はさまざまな蛍光挙動を示し、大変興味深い研究対象です。

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左より、入井 駿大学院生、大垣 拓也特任助教、池田 浩教授

掲載誌情報

【発表雑誌】Journal of Materials Chemistry C
【論 文 名】The role of a [2.2]paracyclophane moiety in piezofluorochromism of crystalline organoboron complexes
【著  者】Shun Irii, Takuya Ogaki, Shun Yamamoto, Hana Miyashita, Kazutaka Nobori, Hiroki Iida, Yoshiki Ozawa, Masaaki Abe, Hiroyasu Sato, Yasunori Matsui, Hiroshi Ikeda

【掲載URL】https://doi.org/10.1039/D5TC03195H

資金情報

本研究の一部は、科学研究費助成事業(科研費)、JST SPRING、大阪公立大学戦略的研究支援事業、コニカミノルタ科学技術振興財団、戸部眞紀財団、服部報公会、および前川報恩会からの支援を受けて行われました。

用語解説

1 π-π相互作用:ベンゼンなどの芳香族分子のπ電子間にはたらく相互作用。π電子雲の重なりにより、光吸収や発光の波長などの物性が変化する。

2 ピエゾフルオロクロミズム(PFC):等方的圧力に応答して蛍光の発光色が可逆的に変化する現象。

3 シクロファン:ベンゼン環を炭素鎖などで連結した大環状化合物。特に、[2.2]パラシクロファンとは、2つのベンゼン環をそれぞれのパラ位でC2炭素鎖により連結した化合物。

※4 ダイヤモンドアンビルセル:ダイヤモンドで試料室(セル)をはさみ、試料に超高圧(最大770 GPa、770万気圧)を加える手法[アンビルは、鍛冶屋が使う金床(かなとこ:金属を叩いて加工するときに使う頑丈な台)のような役割]。深海や地球深部と同等の圧力環境での試料の性質などを調べることができる。ダイヤモンドは無色透明のため本研究のように可視光やX線を照射して、試料の状態を調べることができる。

※5 X線結晶構造解析:X線を単結晶に照射し、その回折パターンを解析することで、単結晶における分子の詳細な構造や、分子同士の配列の仕方を明らかにする手法。

研究内容に関する問い合わせ先

大阪公立大学大学院工学研究科
教授 池田 浩(いけだ ひろし)
TEL:072-254-9289
E-mail:hiroshi_ikeda[at]omu.ac.jp

※[at]を@に変更してください。

報道に関する問い合わせ先

大阪公立大学 広報課
担当:谷
TEL:06-6967-1834
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp

※[at]を@に変更してください。

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