最新の研究成果
栽培種と野生種の交雑はどのように起きるのか? ~植物の異種交雑メカニズムの一端を解明~
2026年1月9日
- 農学研究科
- プレスリリース
ポイント
◇植物において、雑種致死※1を乗り越えて多数の後代を産出できる交雑組合せを発見。
◇ゲノムショック※2による雑種致死原因遺伝子座※3の欠失が、異なる種の交配を妨げる生殖隔離の克服につながることを解明。
概要
植物の育種では、遺伝的に異なる植物を交雑して遺伝子を交換する交雑育種が基本かつ重要な方法として行われています。しかし、異なる種との交雑は、通常は生殖隔離という仕組みによって妨げられており、その隔離を乗り越えて他の種とどのように交雑するのかはよく分かっていませんでした。
大阪公立大学大学院農学研究科応用生物科学専攻の永井 翔大大学院生(博士後期課程3年)、手塚 孝弘准教授と、東京農工大学大学院農学研究院生物生産科学部門の山田 哲也教授らの研究グループは、実験植物であるタバコを用い、特定の種間交雑組合せにおいて、生殖隔離の一種である雑種致死を示す植物だけではなく、雑種致死を全く示さない植物が高頻度に得られることを発見しました。これらの雑種植物を解析した結果、遺伝的・エピジェネティック※4な変化が認められ、種間交雑の過程でゲノムショックが生じていることが示唆されました。さらに、雑種として生存できるものの多くでは、両親から受け継ぐと子孫が育たなくなる2つの雑種致死原因遺伝子座のうち、片方が欠失していることが分かりました。本研究結果は、生殖隔離を克服し交雑育種を達成するための糸口となることが期待されます。
本研究成果は、2025年11月19日に国際学術誌「Frontiers in Plant Science」に掲載されました。

本研究を通じて、交雑育種や植物の進化に関する新しい知見を提示できたことをうれしく思います。データの整理・統合には苦労もありましたが、本成果が今後の研究や社会に貢献することを期待しています。

永井 翔大大学院生
雑種致死が生じる交雑組合せでありながら、なぜか多数の生存雑種も出現するという奇妙な現象を見つけたのは、私が博士課程の学生のときでした。それから随分と時間が経ちましたが、雑種致死の原因遺伝子に関する研究が当研究グループや海外のグループによって前進したことでこの研究も大きく進展し、論文にまとめることができました。その間、大阪公立大学(大阪府立大学)の6名の指導学生に携わってもらいました。

手塚 孝弘准教授
掲載誌情報
【発表雑誌】Frontiers in Plant Science
【論 文 名】Genome-shock deletion of a hybrid lethality gene breaks a reproductive barrier and facilitates speciation in Nicotiana
【著 者】Shota Nagai, Kenji Kawaguchi, Hiroki Itakura, Kaho Matsumoto, Takahiro Iizuka, Kosaku Kobayashi, Kouki Nakata, Tetsuya Yamada, Wataru Marubashi, Masanori Yanase, Toshinobu Morikawa, Shuji Yokoi, Takahiro Tezuka
【掲載URL】https://doi.org/10.3389/fpls.2025.1690873
資金情報等
本研究の一部はJSPS科研費(JP20880024、JP25870627、JP17K15224、JP20K05988、JP25K09063)の助成を受けて実施しました。
用語解説
※1 雑種致死:交雑で得られた種子中の雑種胚や雑種植物が遺伝的に枯死すること。雑種致死は種間交雑だけではなく、種内の品種・系統間交雑でみられることもあり、雑種の後代を得ることができないことから交雑育種の重要課題となっている。
※2 ゲノムショック:種間交雑で生み出される雑種は両親に由来する2種類のゲノムを併せ持つため不安定になりやすい。それを安定化する過程で染色体の再構築が行われる現象のこと。
※3 雑種致死原因遺伝子座:雑種致死を引き起こす遺伝子が存在する染色体上の位置。タバコの雑種致死は、異なる2つの原因遺伝子座のそれぞれに存在する顕性対立遺伝子の相互作用によって生じる。
※4 エピジェネティック:DNAの塩基配列に変化(突然変異)が生じていないにもかかわらず、表現型や遺伝子発現が変化する現象のこと。
研究内容に関する問い合わせ先
大阪公立大学大学院農学研究科
准教授 手塚 孝弘(てづか たかひろ)
TEL:072-254-8457
E-mail:tezuka[at]omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
報道に関する問い合わせ先
大阪公立大学 広報課
担当:谷
TEL:06-6967-1834
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
該当するSDGs