最新の研究成果

約40年間の降雨データを最新手法で解析~日本の豪雨リスクをより正確に把握することが可能に~

2026年2月5日

  • 生活科学研究科
  • プレスリリース

発表者

大阪公立大学大学院生活科学研究科 袁 継輝准教授焦 志超客員研究員ファーナム クレイグ教授、永村 一雄名誉教授

概要

本研究グループは、1981年から2020年までの日本全国752の気象観測所から時間降水データで返値レベル※1を算出しました。未観測地域の極端降水を予測するため、極端降水の空間予測において、伝統的な空間統計モデルであるクリギング法とクリギング法の代替として用いられるINLA-SPDE法※2を適用。日本を4つの地域(北海道、本州、四国、九州) に分け、LOOCV※3でモデル性能を評価した結果、INLA-SPDE法がより予測安定性が高く、特に50年・100年に一度クラスのまれな大雨での標準偏差が小さいことが分かりました。また、返値レベルが長くなるにつれ空間変動が増大し、南から北への高リスクゾーンが拡大することが明らかになりました。

本研究成果は、2026年1月6日、国際学術誌「Journal of Hydrology: Regional Studies」にオンライン掲載されました。

ポイント

  1. AMeDAS の752地点(1981〜2020年)のデータを用いて、各地域の「何年に1度レベル」の豪雨量を精密に算出。
  2. 空間統計モデル(INLA-SPDE法)により、観測点が少ない地域でも豪雨リスクを安定して推定でき、特に50年・100年に一度クラスのま     れな大雨において、予測の安定性が大幅に向上。
  3. 従来想定よりも極端豪雨の発生域が北へ広がっており、北海道南部や東北の一部でも100mm/h級の豪雨リスクが確認。

図による研究概要(日本語)

気候変動による極端降水の増加に危機感を抱き、日本全国のリスク評価に取り組みました。大変だったのは、752観測所の膨大なデータを処理し、INLA-SPDEモデルの精度を検証する点。嬉しかったのは、従来法より安定した予測が得られ、高リスクゾーンの北上を明らかにできたことです。最新科学を基に防災計画を更新し、洪水被害を防ぎましょう。

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袁 継輝准教授

研究の背景

日本は多様な気候帯と複雑な地形を持つため、近年極端な降水イベントの頻度と強度が増加しており、特に地方部での洪水リスクが高まっています。関連分野では、極端降水の空間予測において、伝統的なクリギング法が極値の平滑化を引き起こす問題(スムージング効果)や、MCMC法※4ベースのベイズ階層モデルの計算負荷が高いという論争があります。一方、INLA-SPDE法はこれらの欠点を克服する効率的な代替として位置づけられ、環境・気候研究で広く用いられますが、日本のような複雑地形での時空間分析への適用は限定的でした。

研究の内容

本研究では、気候変動下での極端降水のリスク評価を目的としており、従来の極端値分布分析(GEV)※5を基に空間モデルを活用して全国規模の返値レベルマップを作成します。1981年から2020年までの752の気象観測所から得られた時間降水データを用い、各観測所で一般化GEVをMCMC法で推定し、2年、5年、10年、25年、50年、100年の返値レベルを算出しました。その後、空間予測のためINLA-SPDE法とクリギング法(OK※6およびKED※7)を適用し、年降水量、海岸からの距離、人口を共変量として未観測地域の極端降水を予測しました。日本を4つの地域に分け、LOOCVでモデル性能を評価した結果、INLA-SPDE法(特に年降水量を共変量としたSPDE1モデル)がクリギング法より予測安定性が高く、長返値期での標準偏差が小さいことがわかりました。これにより、返値レベルが長くなるにつれ空間変動が増大し、南から北への高リスクゾーンの拡大(特に北海道南部と東北の一部)が明らかになりました。

期待される効果・今後の展開

本研究は、従来のハザードマップの課題を明らかにし、気候変動下における洪水リスクを科学的に評価する枠組みを提示することで、防災計画の質の向上に寄与する点に意義があります。また、水利工学や都市計画分野で返値レベルの更新を促し、洪水防災インフラの強化に寄与します。社会全体では、地方部の脆弱性を軽減し、経済損失や人的被害を防ぐ効果が見込まれます。今後の課題として、台風経路などの動的な気象要因をモデルに組み込むとともに、時空間モデルへの拡張を行うことが挙げられます。これらの課題を解決することで、極端降雨の発生過程をより現実的に捉えることが可能となり、解像度の高い予測の実現が期待されます。

掲載誌情報

【発表雑誌】 Journal of Hydrology: Regional Studies
【論  文  名】 Assessing the risk of extreme precipitation in Japan through GEV distribution and spatial modeling
【著  者】 Zhichao Jiao, Jihui Yuan, Craig Farnham, Kazuo Emura

【掲載URL】 https://doi.org/10.1016/j.ejrh.2026.103107

資金情報

日本学術振興会科学研究費補助金(23KJ1840およびJP22K02098)の支援を受けて実施しました。

用語解説

※1 返値レベル(Return level):特定の返値期(例:100年)で期待されるイベントの大きさを示す値。
※2 INLA-SPDE法(Integrated Nested Laplace Approximation - Stochastic Partial Differential Equation):ベイズ空間モデルで、計算効率が高く、複雑な空間依存を扱うための方法。クリギング法の代替として用いられる。
※3 LOOCV(Leave-One-Out Cross-Validation):モデルの精度検証手法の一つ。1点を除いてモデルを構築し、その除外点を予測することを全データで繰り返し、予測誤差を評価する方法。
※4 MCMC法(Markov Chain Monte Carlo):ベイズ推定で事後分布をサンプリングするシミュレーション手法。
※5 極端値分布分析(Generalized Extreme Value distribution、略:GEV)は、極端値理論に基づく確率分布で、極端なイベント(例:最大降水量)の頻度と強度をモデル化する分析手法。
※6 OK(Ordinary Kriging):空間データの補間手法の一つで、地点間の距離や空間的な相関構造を利用して、未観測地点の値を推定する方法。平均値は一定と仮定する。
※7 KED(Kriging with External Drift):Ordinary Kriging を拡張した手法で、外部説明変数(例:標高、土地被覆、建物特性など)を 考慮して推定を行う。空間相関と外部要因の両方を用いる点が特徴。

研究内容に関する問い合わせ先

大阪公立大学大学院生活科学研究科
准教授 袁 継輝(えん けいき)
TEL:06-6605-2833
E-mail:yuan[at]omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。

報道に関する問い合わせ先

大阪公立大学 広報課
担当:橋本
TEL:06-6967-1834
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。

該当するSDGs

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