最新の研究成果
健康への前向きな心とフレイルの関連性を解明
2026年2月17日
- リハビリテーション学研究科
- プレスリリース
発表者
大阪公立大学大学院リハビリテーション学研究科 音部 雄平講師
聖マリアンナ医科大学 腎臓・高血圧内科 柴垣 有吾教授
概要
本研究グループは、全国の慢性腎臓病患者に対し、病気があっても「気持ちの面で前向きに捉えられているか」などを測る『健康関連ホープ尺度』で分析し、フレイル(虚弱)の程度が悪化するほど、ホープの点数が低い傾向であることを解明しました。
本研究成果は、2026年1月16日に国際学術誌「Geriatric Nursing」にオンライン掲載されました。
ポイント
- 全国の慢性腎臓病患者285人の『健康関連ホープ尺度』を分析し、フレイルの程度を質問票で判定。フレイルの程度が悪化するほど、ホープの点数が低い傾向にあることが明らかに。
- 抑うつ症状、口腔機能の低下、認知機能の低下、身体機能の低下などの順に、ホープの低さと関連していることを確認。
- ホープが下がりやすい患者の早期発見で、心のケア、運動や口腔ケアなどを含む包括的介入ができる可能性。
臨床現場で患者さんと向き合う中で、病気や身体の機能だけではなく、「患者さんの気持ち」や「病気との向き合い方」など、精神的な部分の重要性を感じるようになってきました。
本研究は探索的な第1歩目ですが、今後はどのようにすれば患者さんが「ホープ」を保てるのか、その具体的な方策について検証していきたいと考えています。

音部 雄平講師
研究の背景
慢性腎臓病は、長期にわたり治療やセルフマネジメントが必要な病気です。これまでは腎臓の機能の数値 (eGFRなど)のような検査結果で治療の成果を見てきましたが、最近はそれだけではなく、「患者がどのように感じているか」や「どんな生活を送れているか」といった患者報告アウトカム※の重要性が高まっています。また、こうした長期に渡る治療を前向きに続けるうえで重要となるのが“ホープ”です。その中で注目されている指標として『健康関連ホープ尺度(Health-Related Hope)』があります。健康関連ホープ尺度は、病気があっても「気持ちの面で前向きに捉えられているか」や「生きがいを持って暮らしていけるか」など、患者の気持ちについて測る質問票です。このホープが高いほど、治療や生活上の制限にうまく向き合いやすい可能性がある一方で、ホープが下がると治療を続けるのがつらくなることが考えられています。
しかし、慢性腎臓病の患者において、どのような要因がホープの低下と関係するのかは十分に分かっていません。
研究の内容
本研究は、全国の慢性腎臓病患者を対象にした横断研究(ある一時点の状態を調べる研究)です。オンライン調査で312人が回答し、条件を満たした285人を分析しました。健康関連ホープ尺度は18項目の質問票でたずね、0〜100点に換算しました。ホープはスコアが大きいほど、患者の健康に関する希望が高いと解釈されます。また、ホープに関係しうる要因として、フレイル (虚弱)の程度を、基本チェックリストという質問票で判定しました。さらに、虚弱の内容として「身体機能」「認知機能」「栄養機能」「口腔機能」「閉じこもり」「抑うつ」に細分化して、その影響度を確認しました。
その結果、フレイルの程度が悪化するほど、ホープの点数が低い傾向にありました。ホープの平均点は、ロバスト(頑強)が63.1点、プレフレイル(前虚弱)が54.5点、フレイル(虚弱)が41.4点でした (図1)。また、「どの領域が関係していそうか」を見ると、抑うつ症状、口腔機能の低下、認知機能の低下、身体機能の低下、閉じこもりの順に、ホープの低さと関連していました。この関係性は、年齢や性別、腎臓の機能、その他属性を考慮しても残存していました。

図1. フレイルの程度別、健康関連ホープ尺度得点
期待される効果・今後の展開
本研究結果から、慢性腎臓病の患者では、腎臓の数値だけを見ていると気づきにくい「フレイルの程度」や「気分の落ち込み」「外出の減少」「口腔・認知・身体機能の問題」などが、ホープと関係している可能性が示されました。そのため、外来診療などでフレイルを幅広くチェックできれば、ホープが下がりやすい患者を早めに見つけ、必要に応じて心のケア、社会的な支援、運動や口腔ケアなどにつなげる考え方が取りやすくなるかもしれません。
ただし、この研究は「ある時点」で比べた横断研究のため、「フレイルが先でホープが下がったのか」「ホープが下がったことでフレイルが進んだのか」は断定できません。両方が影響し合って悪循環になる可能性もあります。今後は、同じ人を対象に時間を追って調べる縦断研究で、希望とフレイルの変化の順番や関係を確かめる必要があります。また、フレイル全体に働きかける支援でホープが上がるかどうかも、今後の研究課題です。
掲載誌情報
【発表雑誌】 Geriatric Nursing
【論 文 名】 Association between frailty, frailty domains, and health-related hope in patients with pre-dialysis chronic kidney disease.
【著 者】 Yuhei Otobe, Yugo Shibagaki.
【掲載URL】 https://doi.org/10.1016/j.gerinurse.2026.103801
資金情報
本研究は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費 (JP22K21211)の支援を受けて実施しました。
用語解説
※患者報告アウトカム:血液検査や画像検査などではなく、患者自身の回答でわかる体調・生活の状態。
研究内容に関する問い合わせ先
大阪公立大学大学院リハビリテーション学研究科
音部 雄平(おとべ ゆうへい)
TEL:06-6167-1252
E-mail:otobe[at]omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
報道に関する問い合わせ先
大阪公立大学 広報課
担当:橋本
TEL:06-6967-1834
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
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