最新の研究成果

鉄道新駅開業が中年世代の医療費削減に効果~メディカルビッグデータから推計~

2026年2月12日

  • 生活科学研究科
  • プレスリリース

発表者

大阪公立大学大学院生活科学研究科 都市科学研究室 加登 遼講師、脇坂 桜也菜氏(研究当時:大阪市立大学生活科学部4年)、日本システム技術株式会社 未来共創Lab 市原 泰介室長、荒井 健太副主任、山田 雄矢副主任

概要

本研究グループは、2019年に全線開業したJRおおさか東線(北区間:新大阪-放出間)を事例に、鉄道新駅開業による中年世代の一人当たり医療費への影響を分析しました。

その結果、北区間全体では統計的に有意な医療費削減効果は確認されませんでしたが、鴫野駅では開業後4年間の累積医療費の抑制効果があると推計されました。

本研究は、すべての新駅が一様に健康効果をもたらすわけではなく、駅の立地特性や接続性によってその効果が異なる可能性を示唆しており、健康まちづくりにおける「場所」の選定の重要性を示すものです。

本研究成果は、2026年1月19日に国際学術誌「Journal of Transport & Health」にオンライン掲載されました。

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ポイント

  1. 新駅が開業した北区間全体では、統計的に有意な医療費削減効果は確認されなかった。
  2.  個別の駅レベルで見ると効果にばらつきがあることが明らかに。
  3. 地下鉄や他路線との結節点であり交通利便性の高い「鴫野駅」周辺においては、開業後の4年間における一人あたりの累積医療費支出が、約62,500円減少する傾向が推計された。

<研究者のコメント>

総合知を結集した都市シンクタンク機能を担う本学は、証拠に基づく政策立案(EBPM)の観点から、まちづくりに対する社会的インパクト評価手法の開発を進めています。本研究は、医療費支出という観点から、まちづくりの社会的インパクトを評価することを可能にした、重要な成果です。

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脇坂 桜也菜氏・加登 遼講師

研究の背景

人口減少や少子高齢化が進む日本において、政府は鉄道駅などの公共交通拠点を中心に都市機能を集約する「コンパクト・プラス・ネットワーク」政策を推進しています。これまでの研究で、鉄道新駅の開業は地価上昇や人口増加といった経済効果だけでなく、住民の身体活動量を増加させる効果があることが報告されてきました。同研究グループによる先行研究(JR総持寺駅の事例※1)では、単一の新駅開業が医療費削減に寄与する可能性が示されましたが、その効果が他の路線や複数の駅を含む開発においても同様に一般化できるのか、またどのような特性を持つ駅で効果が現れやすいのかについては不明でした。

研究の内容

本研究は、2019年3月に延伸開業したJRおおさか東線の北区間(JR淡路駅、城北公園通駅、JR野江駅、鴫野駅など)を対象とした自然実験※2です。分析には、日本システム技術株式会社が保有する匿名化されたレセプトデータ(メディカルビッグデータREZULT)を使用しました。同一路線内でありながら開業時期が異なる「南区間(2008年開業)」のデータを共変量(比較基準)として利用し、Causal Impact Algorithm※3を用いて、反実仮想※4(もし北区間が開業していなかった場合の医療費推移)を推計し、実際の医療費との差分から因果関係を解明しました。

分析の結果、北区間の新駅エリア全体では、中年世代において、統計的に有意な医療費の減少は確認されませんでした。しかし、駅ごとに分析を行うと結果に違いが見られました。具体的には、JR淡路駅、城北公園通駅、JR野江駅では明確な医療費減少が見られなかった一方、鴫野駅においては、開業後4年間で一人あたり約62,500円(95%信頼区間:-141,218円~21,306円、p = 0.06)の累積医療費の抑制効果が推計されました。鴫野駅は、JR学研都市線やOsaka Metro今里筋線との接続があり、他駅に比べてネットワーク性が高いという特徴があることが影響した可能性があります。また、開業前の医療費水準が比較的高かった地域ほど、開業後の削減余地が大きい可能性も示唆されました。

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図:鴫野駅における一人あたりの医療費支出の分析データ

期待される効果・今後の展開

本研究は、単に「駅を作れば健康になる」という単純な図式ではなく、駅の接続性や地域の既存の医療費水準といった特性によって、健康への経済効果が大きく異なることを明らかにしました。これは、限られた財源の中で効率的に「健康まちづくり」を進めるための、科学的根拠に基づく政策立案(EBPM)に資する重要な知見です。

本学の生活科学研究科およびリハビリテーション学研究科、日本システム技術株式会社は、2025年度に、『「ヘルスケア分野を中心としたWell-being 共創研究」に関する連携協定』を締結し、森之宮キャンパスを中心に、健康寿命の延伸に向けた新しい予防医療の開発や、全世代におけるウェルビーイング向上に関する研究を推進しています。本研究成果に関連して、交通事業に限らず、スマートシティプロジェクトとして実施されるまちづくりの社会的インパクトを評価する手法の開発に、今後も産官学連携で取り組みます。

資金情報

本研究は、大阪公立大学戦略的研究推進事業(若手研究OMU-SRPP2023_YR05)、旭硝子財団 研究助成(サステイナブルな未来への研究助成:建築・都市分野)提案研究、JST共創の場形成支援プログラム(JPMJPF2115)の支援を受けて実施しました。

用語解説

※1 JR総持寺駅の事例:大阪公立大学プレスリリース「鉄道新駅開業が医療費削減に影響-メディカルビッグデータから推計-」(2024年4月24日)(https://www.omu.ac.jp/info/research_news/entry-11059.html)

※2 自然実験:実験的な介入を研究者がコントロールするのではなく、自然界や社会的な状況の変化によって生じる状況を利用して、因果関係を推定する研究デザイン。

※3 Causal Impact Algorithm:特定のまちづくりが、特定の時系列データに与えた影響を分析する統計モデル。本アルゴリズムはGoogleによって開発され、主に経済学や社会科学、マーケティングなど、さまざまな分野での効果測定に使用されている。

※4 反実仮想:ある特定のまちづくりが無かった場合における、まちの変化のこと。本研究では、JRおおさか東線の各駅が開業されなかった場合における、駅周辺の医療費の変化。

掲載誌情報

【発表雑誌】 Journal of Transport & Health
【論文名】 Impact of opening new train stations on current health expenditures per capita for middle-aged adults: A natural experiment of the Osaka-Higashi Line
【著者】 Sayana Wakisaka, Kenta Arai, Taisuke Ichihara, Yuya Yamada, Haruka Kato

【掲載URL】 https://doi.org/10.1016/j.jth.2026.102264

研究内容に関する問い合わせ先

大阪公立大学大学院 生活科学研究科
講師 加登 遼(かとう はるか)
E-mail:haruka-kato[at]omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。

報道に関する問い合わせ先

大阪公立大学 広報課
担当:久保
TEL:06-6967-1834
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。

該当するSDGs

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