最新の研究成果
次世代の無線通信技術の発展に向けて ~希薄窒化ガリウムひ素化合物半導体の新たな現象を発見~
2026年2月10日
- 工学研究科
- プレスリリース
発表者
大阪公立大学大学院工学研究科 竹内 日出雄准教授
概要
次世代の無線通信技術の6GやBeyond 7Gでは、固体内の原子や格子の振動などフォノンの効果を考慮する必要があり、その研究は非常に重要です。
本研究グループは、希薄窒化ガリウムひ素(GaAs1-xNx)化合物半導体に、フェムト秒(fs = 1×10-12 ms)のレーザーパルス光を照射して発生した、コヒーレント縦光学(LO)フォノン※1によるテラヘルツ帯(1 THz=1000 GHz)の電磁波の波形を、時間の関数として記録しました。その結果、GaAs1-xNx特有の電子有効質量※2増大により、電子LOフォノン散乱が抑制されて減衰時間が長くなることが分かりました。次世代無線通信技術の発展につながることが期待されます。
本研究成果は、2025年12月17日に応用物理学(半導体等)分野の旗艦的な国際学術誌「Journal of Applied Physics」に掲載され、Editor’s Pickに選定されました。
ポイント
- 希薄窒化GaAsに、パルス幅40fsのレーザー光を照射して発生したコヒーレントLOフォノンによるテラヘルツ電磁波の波形を時間の関数として記録。コヒーレントLOフォノンの減衰時間増大を観測。
- 窒素混晶化※3による電子有効質量の劇的な増大により、電子LOフォノン散乱が抑制された。
図1 無線通信技術の発展の歴史
<研究者のコメント>
ヘルツ氏による電磁波の発見には、その応用について“Nothing, I guess. (何の役にも立たない)”と自身が答えたという逸話があります。しかし、この発見が無線通信時代の幕開けでした。本研究は、生まれたてで役に立つか即答できない基礎的研究成果ですが、無線通信技術の発展につながればと期待しています。

竹内 日出雄准教授
研究の背景
無線通信の発展は、文字・画像・動画などの情報のやり取りをグローバル化させ、文化・文明の発展に寄与し、「無線通信無くして文明なし」と呼ばれる状況を生み出しました。こうした状況下で無線通信の高周波化が進んでいます。AM/FMラジオがkHz/MHzオーダーであり、家庭内Wi-Fiで2-5 GHz(1 GHz=1000 MHz)に達しています。そして次の6G、Beyond 7Gでは、テラヘルツ帯(1 THz=1000 GHz)の利用が検討されており、この周波数帯域では半導体内の素励起が深く関与するという点で、他の周波数帯と異なる特徴があります。素励起とは、電子集団運動であるプラズモンやフォノン (固体内の原子の振動、格子振動)のことを指し、半導体内のフォノンの研究を行うことが重要となってきます。
研究の内容
化合物半導体では、混晶化という手法によって多彩な物性を制御できるという特徴があります。本研究グループは、希薄窒化GaAs(GaAs1-xNx)試料に対してパルス幅40 fsのレーザー光を照射し発生したコヒーレント縦光学(LO)フォノン起因のテラヘルツ電磁波の波形を、時間の関数として記録しました。これにより、希薄窒化GaAsでは窒素混晶化により、電子有効質量が劇的に増大し、電子LOフォノン散乱が抑制されたと結論しました。

図2 コヒーレントLOフォノンから発生したテラヘルツ電磁波時間波形
期待される効果・今後の展開
コヒーレントフォノンの減衰時間の制御および高周波デバイス設計特有のSパラメーターの解明と制御、およびTHz高周波デバイスのプロセス条件設定に活用できます。
特記事項
本研究は米国ミシガン大学との国際共同研究で、Rachel Goldman(レイチェル・ゴールドマン)教授の研究室から試料提供を受け、テラヘルツ時間領域分光測定とその解析、減衰時間に対するモデル構築を大阪公立大学が担当しました。
資金情報
本研究は、核融合科学研究所からの学術研究費支援(NIFS22KIIA003およびNIFS24KIII009)を受けて実施しました。
用語解説
※1 コヒーレント縦光学(LO)フォノン:重い原子(As)と軽い原子(Ga)が逆位相で変位する振動。コヒーレントとは振動の位相が揃っている状態を示す。
※2 電子有効質量:量子力学と古典力学との対応原理から導き出される半導体内電子の質量。
※3 混晶化: 2種類以上の物質が、固体状態で均一に混ざり合ってできた結晶。
掲載誌情報
【発表雑誌】 Journal of Applied Physics vol.138, issue 23, article no. 233105 1-7 (2025)
【論文名】 Influence of nitrogen on coherent longitudinal optical phonons in GaAs1-xNx
【著者】 Hideo Takeuchi, Kai Matsunaga, Yusuke Sengi, Jared W. Mitchell, Yury Turkulets, and Rachel S. Goldman
【掲載URL】 https://doi.org/10.1063/5.0307567
研究内容に関する問い合わせ先
大阪公立大学大学院工学研究科・電子物理系
准教授 竹内 日出雄(たけうち ひでお)
TEL:072- 247-6163
E-mail:Hideo.Takeuchi_PhD[at]omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
報道に関する問い合わせ先
大阪公立大学 広報課
担当:谷
TEL:06-6967-1834
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
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