最新の研究成果
滑膜肉腫の増殖に関与する“栄養素”を特定~依存性を鍵とした新規治療法の可能性を示す~
2026年2月17日
- 医学研究科
- プレスリリース
発表者
大阪公立大学大学院医学研究科整形外科学 チャン ドゥック タン大学院生、高田 尚輝病院講師
概要
本研究グループは、悪性腫瘍(がん)の一種である滑膜肉腫に対し、新たな治療ターゲットになりうる『グルタミン※1代謝』に着目して解析を行いました。その結果、滑膜肉腫はグルタミンに強く依存しており、さらにグルタミンを取り込むための入口(トランスポーター)である ASCT2※2を阻害することで腫瘍の増殖を抑えられる可能性が示されました。
本研究成果は、2025年12月19日に国際学術誌「Cancers」にオンライン掲載されました。
ポイント
- 滑膜肉腫は、グルタミン依存性が高い悪性腫瘍(がん)であることが明らかに。
- ASCT2阻害薬である『V9302※3』 が滑膜肉腫の増殖を抑えることを確認。
- マウス実験でも腫瘍抑制効果が確認され、副作用も少ないこともが示された。

図:V9302が腫瘍増殖を抑制する可能性を示す実験結果
がん細胞の「依存性」を理解することで、がん個別治療の可能性を示せました。今後はこの経験を活かし、ベトナムの肉腫診療に貢献します。この研究は私にとって大きな挑戦であり、貴重な学びの機会となりました。

チャン ドゥック タン大学院生
研究の背景
滑膜肉腫は、主に10~40代の比較的若い人の手足にできやすく、進行が速い「悪性腫瘍(がん)」です。手術で取り切れれば治る可能性がありますが、再発したり、肺などに転移したりしてしまった場合は、放射線や抗がん剤が効かないこともあり、治療が難しく命に関わることもあります。そのため、現状の治療法だけでは十分とはいえず、新しい治療法(新しい抗がん剤など)が必要です。
近年、がんの研究では「がん細胞が何を栄養にして生きているのか」という、エネルギー代謝の視点が注目されています。がん細胞は普通の細胞より多くの栄養を必要とし、特にグルタミンというアミノ酸に強く依存しているのか、それを治療の標的にできるのかについては、まだ十分に分かっていませんでした。そこで本研究では、グルタミン代謝が滑膜肉腫の新しい治療ターゲットになるのではないかと考えました。
研究の内容
本研究では、滑膜肉腫の腫瘍細胞が「グルタミン」という栄養を取り込むための入口(トランスポーター)であるASCT2を多く持っているかどうかを調べました。また、その入口を薬でふさいだ際に、腫瘍細胞の増殖を弱められるのかも確認しました。まず、罹患者から手術で採取した腫瘍組織を調べたところ、滑膜肉腫では他の肉腫よりもASCT2が強く発現していました。つまり、滑膜肉腫はグルタミンを積極的に取り込んでいる可能性があると考えられました。次に、滑膜肉腫の腫瘍細胞を培養して、グルタミンを減らした環境に置くと、細胞の増殖が止まりやすいことが分かりました。これは、滑膜肉腫がグルタミンに強く依存していることを示しています。さらに、ASCT2を狙って阻害する薬であるV9302を使うと、滑膜肉腫の細胞は増えにくくなり、アポトーシス(細胞の自滅)が起こりました。一方で、正常細胞への影響は比較的少なく、がん細胞に選択的に効く可能性が示されました。この仕組みとして、V9302によりグルタミンの取り込みが抑制された結果、がん細胞が増えるために重要なAKT/mTOR※4という増殖スイッチが抑えられ、最後にはカスパーゼ3※5という細胞死のスイッチが入ることで、細胞が死ぬことが確認されました。
最後に、マウスに滑膜肉腫を作って行った実験でも、V9302を投与すると腫瘍の増大がはっきり抑えられました。また、体重減少や肝臓・腎臓の強い障害などの目立った副作用が少ないことも示されました。
期待される効果・今後の展開
本研究では、滑膜肉腫は「グルタミン」を多く使用して生存しているがんであることが分かり、ASCT2をふさぐ治療が有望であると示されました。これは、がん細胞を直接たたく抗がん剤だけでなく、がんの栄養の流れを止めて弱らせるという新しい治療法の開発につながります。将来は、再発や転移した滑膜肉腫の治療で、ASCT2を止める薬が新しい選択肢になるかもしれません。また、免疫療法(免疫チェックポイント阻害薬)と組み合わせることで、さらに効果が高まる可能性もあります。ただし本研究は、細胞やマウスでの実験が中心のため、もっと多くの滑膜肉腫で同じ効果が出るか、人に使って安全か、どんな使い方が一番よいかは、これから調べていく必要があります。
資金情報
この研究は、Vinmec Healthcare System(ベトナム)、日本学術振興会、大阪対がん協会、日本癌治療学会/小林がん学術振興会などの支援を受けて実施されました。
用語解説
※1グルタミン:アミノ酸の一種で、細胞が増えるための材料やエネルギー源になる。がん細胞は大量に利用する場合がある。
※2 ASCT2(SLC1A5):グルタミンを細胞内へ運ぶトランスポーターである。がんで高発現することがある。
※3 V9302:ASCT2を阻害してグルタミン取り込みを抑える化合物。
※4 AKT/mTOR経路:細胞増殖や生存を制御する重要なシグナル経路である。栄養状態とも強く関連する。
※5 カスパーゼ3:アポトーシスの実行に関わる中心的酵素。
掲載誌情報
【発表雑誌】 Cancers
【論文名】 Targeting Glutamine Transporters as a Novel Drug Therapy for Synovial Sarcoma
【著者】 Tran Duc Thanh, Naoki Takada, Hana Yao, Yoshitaka Ban, Naoto Oebisu, Manabu Hoshi, Nguyen Tran Quang Sang, Nguyen Van Khanh, Dang Minh Quang, Le Thi Thanh Thuy, Tran Trung Dung, Hidetomi Terai
【掲載URL】 https://doi.org/10.3390/cancers18010015
研究内容に関する問い合わせ先
大阪公立大学大学院医学研究科整形外科学
高田 尚輝(たかだ なおき)
TEL:06-6645-3851
E-mail:n_takada17[at]hotmail.com
※[at]を@に変更してください。
報道に関する問い合わせ先
大阪公立大学 広報課
担当:久保
TEL:06-6967-1834
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
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