最新の研究成果
光が生み出す流れで生体試料を高速濃縮する金属ナノ薄膜光ファイバ型3次元捕捉技術を開発
2026年2月19日
- 研究推進機構
- 理学研究科
- 工学研究科
- プレスリリース
発表者
大阪公立大学LAC-SYS研究所 林 康太 特任助教
大阪公立大学大学院理学研究科/LAC-SYS研究所 飯田 琢也 教授/所長
大阪公立大学大学院工学研究科/LAC-SYS研究所 床波 志保 教授/副所長
概要
本研究では、光ファイバ端面に金属ナノ薄膜を被覆した光ファイバ型光濃縮モジュールを開発し、任意の場所でバブルを発生させ3次元的な高速の対流により、わずか1分間のレーザー照射で104個の細菌およびナノ・マイクロ蛍光ポリスチレン粒子を高効率に集積できることを実証しました(図1)。低コストで配列化も容易なため、微生物検査や生体分子の計測技術のみならず、核酸、タンパク質など多様な生体サンプルの前処理技術のハイスループット化にも貢献します。
本研究成果は、2026年2月19日に国際学術誌「Communications Physics」にオンライン掲載されました。

図1 (a)本研究で開発した光ファイバ型モジュールによる光濃縮の3次元模式図、(b)基板に垂直な断面、(c)水平な断面での模式図。(d)従来の平坦基板を用いた光濃縮法の模式図。光ファイバ型光濃縮を行った後の(e)光学透過像、および(f)蛍光像(ナノ・マイクロ蛍光ポリスチレン粒子を使用)。
ポイント
- 光ファイバ型光濃縮モジュールで3次元的に任意の位置にバブルと数mm/s(ミリメートル/秒)もの高速な対流を発生させ、細菌やナノ・マイクロ蛍光ポリスチレン粒子を高効率に集積できることを実証。
- 同じプラットフォームでナノサイズからマイクロサイズまでさまざまなサイズの生体分子の濃縮が可能。
- 光ファイバ型光濃縮モジュールを基板上に配置すると基板と水平な方向に対流が発生し、光ファイバ周囲への粒子の集積や、熱源から遠ざかる方向への粒子の運動などの新現象も発見。
<研究者のコメント>
光熱効果により効率的にナノ・マイクロ物質を集積する物理的メカニズムが分かってきました。また、流体効果の発見など基礎的にも重要な知見を得ました。本研究を発展させ、バイオ分析の革新や光科学の発展にも貢献したいと考えています。
林特任助教 床波副所長 飯田所長
研究の背景
近年、さまざまなバイオ分析技術の研究開発が世界中で行われており、たとえば、医療検査で使われるバイオマーカー(遺伝子、タンパク質など)や食品検査で対象となる微生物などはナノスケールからマイクロスケールの微小な生体分子が多く、希薄でサンプル量も少量なため計測が困難なことが多々あります。公衆衛生上重要な微生物検査を例にとると、O157などの食中毒菌のように10個程度の細菌数でも深刻な被害をもたらします。従来、このような細菌の検出には主に培養法※1による検査が行われてきましたが、結果が出るまで一晩から数日かかることが一般的です。また、マイクロプラスチックなどの環境負荷物質も増えていますが、河川や1立方メートルあたり数個~数十個との報告もあり、生体に取り込まれる前に検出するには前処理による高度な濃縮検出が重要課題です。
本研究グループでは、金属ナノ構造へのレーザー照射で発生する熱対流(光誘起対流)とバブルを用いてさまざまな生体物質を数分で集積し検出できる光濃縮法※2を開発してきました。具体的には、マイクロスケールの周期的な構造を持つハニカム基板や疑似泡基板、ナノスケールの多細孔構造を有するナノボウル基板などを開発し、80%以上の高生存率で細菌を集積させ、タンパク質にダメージを与えず抗原抗体反応を加速できることを報告してきました。しかし、集積した細菌の集合効率(=集積細菌数/全細菌数×100(%))は高い場合で数%であり、濃縮率の向上が求められていました。また、基板上にバブルを発生させると基板の存在により駆動される対流の速度が遅くなり、分散質※3を輸送できる範囲や方向、速さに制限が生まれてしまい、これが集合効率向上のボトルネックになっていました。さらに、対象粒子や溶媒の光吸収による熱発生による対流を用いた微粒子集積に関する報告はあるものの、微生物や生体分子を対象とした報告はほとんどありませんでした。
研究の内容
本研究で開発した光ファイバ型光濃縮モジュールは、光ファイバの端面に金属ナノ薄膜を有します。サンプル中の任意の場所に挿入した光ファイバ内に近赤外レーザーを導入すると、端面の金属ナノ構造が熱源として動作して発生させたバブルと対流により、光ファイバ端面で光濃縮を起こすことができます。この結果、分散質を10%以上の高い集合効率で集積することを実現しました。具体的には、光ファイバ型光濃縮モジュールで1分間レーザー照射するだけで、20µL(100万分の1L、読みはマイクロリットル)の微量の液体試料中の約9万個のマイクロ粒子(直径1µm)から1万個の粒子を光濃縮して集積し、細菌(大腸菌、長軸2~4µm、短軸0.5~1µmの棒状)でも同様の結果を得ています。いずれの場合も最大10%程度の集合効率でファイバ端面への集積に成功しており(図1、図2(a))、計算上では液中に10個の細菌がいれば検出できる可能性を示しています。まずマイクロ粒子を含む分散液にこの光ファイバ型光濃縮モジュールを挿入し、基板から離れた液中の任意の位置でバブルを発生させ、粒子の集積に成功しました。この時の濃縮倍率は平坦な金ナノ薄膜を用いた従来法の約30倍になっていました(図1(a)~(c)と(d)を参照)。

図2 (a)光ファイバ型光濃縮モジュールと光濃縮基板の集合効率の比較。 (b)光濃縮前の光ファイバ周辺の粒子分散状況の模式図。(c)光濃縮後の光ファイバ周辺の粒子分散状況の模式図。(d)数値計算による対流分布。[左]基板に平行な断面、[右]基板に垂直な断面。白い矢印は流れの方向を示す。
このような高い濃縮倍率は図1(e)、(f)の実験結果から図2(b)、(c)のようなモデルで説明できると考え、その物理的要因を探るため理論解析を行いました。その結果が図2(d)で、光濃縮時に起きた対流はバブルの周囲の3次元的方向すべてからファイバの端面に向かう数mm/sもの高速であることを解明しました。このような3次元的な高速の対流が、2次元光濃縮基板では達成できなかった10%以上の高い集合効率につながったと考えられます。また、本手法により、光ファイバ型光濃縮モジュールの挿入位置を変えることで、液滴の表面のような気液界面、基板・光濃縮用セルの表面のような固液界面が、光濃縮にどのような影響を与えるのかを明らかにできるようになります。実際に本研究中でも、光ファイバ型光濃縮モジュールを基板上に配置することで(図3(a))、これまでできなかった基板と水平な方向に対流を駆動し、バブルの周辺だけでなく、光ファイバモジュールの周囲への粒子の集積や、熱源から遠ざかる方向へ粒子が運動するなどの新しい現象を見いだしています(図3(b))。

図3 (a)光ファイバの配置の模式図。[左]対流への基板による影響が少ない基板から離れた配置、[右]光ファイバの基板上への配置。(b)光ファイバを基板上へ配置した場合の光濃縮後の蛍光像。
期待される効果・今後の展開
本研究の成果は、安価な光ファイバを加工した光濃縮用モジュールを用いて高い濃縮率を数分程度の短時間で任意の空間配置で実現できる機構を解明したものであり、アレイ化も容易なため、将来的に小型かつ短時間での多検体計測における前処理技術の超ハイスループット化につながる可能性も期待できます(図4)。特に、開発した光ファイバ型光濃縮モジュールは、サンプルに挿入するだけで液体中の微生物や生体分子を濃縮できるため、従来の高性能光濃縮システムで必要だった大型光学系も省略できる可能性があります。観察用の光学系をコンパクト化できれば、フィールドで食品や飲料中の微生物、環境中の有害微粒子(マイクロプラスチック、PM2.5など)を簡便かつ数分で検出できる可能性も期待できます。加えて、ファイバ端面への抗体やアプタマー修飾による選択的な細菌集積による細菌種の同定もできる可能性があります。また、集積した細菌や生体分子を回収し、その後に質量分析システムや次世代シーケンサーなどを用いた最先端分析技術での詳細な解析も可能です。さらに、論文中では、細菌や微粒子に関する適用例を中心にまとめていますが、図4のように、細胞、細菌、ウイルスに加えて、細胞外小胞(EV)のような生体ナノ粒子、タンパク質や遺伝子(DNAやRNAなど)といった疾病マーカーを含むさまざまな生体分子バイオマーカーにも応用可能であり、本研究の成果とライフサイエンスで広く用いられているプレートウェルを組み合わせたハイスループットな多検体同時測定も期待されます。実際に、JST未来社会創造事業では、本研究の知見を活かして医療応用を目指した光濃縮検査システムの試作機開発も産学連携で進めており、製薬プロセス、食品検査、環境計測などさまざまな社会的課題への水平展開も行い、産学官民の多様なニーズに応え得る分析技術のイノベーションを目指しています。

図4 光ファイバ型モジュールとマルチウェルの融合によるハイスループット検出法の構想(将来展望)。
資金情報
本研究は、JST未来社会創造事業 (No. JPMJMI18GA, No. JPMJMI21G1)、JST創発的研究支援事業 (No. JPMJFR201O)、科研費基盤研究 (A) (No. JP24H00433)、科研費基盤研究 (S) (No. JP 25H00421)、NEDO官民による若手研究者発掘支援事業(若サポ) (No. PNP20004)、科研費特別研究員奨励費 (No. JP21J21304)、科研費研究活動スタート支援 (No. JP24K23034)、AMEDムーンショット型研究開発事業 (No. JP24zf0127012s0501)、大阪公立大学戦略的研究推進事業(国際研究拠点形成支援)などの支援で実施されました。
用語解説
※1 培養法:ペトリフィルムなどの培地上に細菌を播種(はしゅ)し、一定時間培養した後にできるコロニーの数から細菌数を見積もる方法。培養にかかる時間は細菌の種類によって数時間から数日にわたる。
※2 光濃縮法:集光したレーザーにより発生する力(光誘起力)と金属ナノ構造へのレーザー照射によって発生する光誘起対流とバブルにより、照射点の周囲に液中の分散質を迅速かつ高密度に集積すること。
※3 分散質:液中に分散している物質のこと。本研究ではマイクロ粒子と細菌のことを指す。
掲載誌情報
【発表雑誌】 Communications Physics
【論文名】 Highly efficient three-dimensional optical condensation of nano- and micro-particles using a gold-coated optical fibre module
【著者】 Kota Hayashi, Mamoru Tamura, Masazumi Fujiwara, Shiho Tokonami*, and Takuya Iida*
【掲載URL】 https://doi.org/10.1038/s42005-025-02480-9
〈役割分担〉
飯田と床波は本研究を立ち上げ、研究デザインに等しく貢献しました。林、飯田、飯田、藤原は、光濃縮用光ファイバを開発し、光濃縮の実験を行いました。林、田村、飯田は理論計算を行いました。林、田村、藤原、飯田、床波は図と原稿を作成しました。著者全員が結果について議論し、原稿にコメントしました。
研究内容に関する問い合わせ先
大阪公立大学
大学院理学研究科/LAC-SYS研究所
教授/所長 飯田 琢也(いいだ たくや)
TEL:072-254-8132
E-mail:t-iida[at]omu.ac.jp
大学院工学研究科/LAC-SYS研究所
教授/副所長 床波 志保(とこなみ しほ)
E-mail:tokonami[at]omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
報道に関する問い合わせ先
大阪公立大学 広報課
担当:谷
TEL:06-6967-1834
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
該当するSDGs