最新の研究成果
オンデマンドバスと路線バスでヘルシーニュータウンへ~バスの併用で1日あたりの歩数が大幅に増加~
2026年2月20日
- 生活科学研究科
- プレスリリース
発表者
大阪公立大学大学院生活科学研究科都市科学研究室 加登 遼講師
概要
本研究は、泉北ニュータウン地域で実施されたオンデマンドバスの実証実験※1で得たユーザーデータを用いて、オンデマンドバスと公共交通機関(鉄道もしくは路線バス)の併用が、居住者の歩数に与える効果を分析しました。その結果、オンデマンドバスと路線バスを乗り継いで利用したグループは、利用しなかったグループと比較して、1日あたりの歩数が大幅に増加していることが判明しました。この増加量は、オンデマンドバス単独利用の効果や、一般的な健康介入による効果を大きく上回り、路線バスとオンデマンドバスの接続が、住民の健康増進に繋がる有力なエビデンスを示しました。
本研究成果は、2026年1月19日に国際学術誌「Transportation Research Interdisciplinary Perspectives」にオンライン掲載されました。
ポイント
- オンデマンドバスと路線バスを組み合わせて利用したグループは、利用していないグループに比べて、1日あたり歩数が平均1,730.74歩増加した。
- オンデマンドバスと鉄道を組み合わせた場合には、有意な歩数増加効果は認められなかった。
- オンデマンドバス利用者は、路線バスの利用頻度も有意に増加しており、オンデマンドバスが路線バスの利用を奪うのではなく、むしろ促進していた。

<研究者のコメント>
大阪府堺市の泉北ニュータウンは、高齢化率が約37%に達しており、急速な高齢化を迎えています。このような高齢化したニュータウンは「オールドニュータウン」と揶揄されてきました。そこで都市科学研究室は、ニュータウンの人々にとって希望のある新たな将来像として「ヘルシーニュータウン」を提唱して、それに向けたリ・デザインに取り組んでいます。

加登 遼講師
研究の背景
高度経済成長期に開発された「ニュータウン」では、住民の高齢化と人口減少が進み、自宅から最寄りの駅やバス停までの「ラストワンマイル」の移動が課題となっています。この課題に対し、南海電気鉄道・南海バス・堺市などの連携により、泉北ニュータウン地域においてAIを活用したオンデマンドバスの実証実験が継続的に行われてきました。
都市科学研究室は、以前にオンデマンドバスの利用が1日あたりの歩数を約600歩増加させることを明らかにしました(https://www.omu.ac.jp/info/research_news/entry-16686.html)。
そこで本研究では、「オンデマンドバスと他の交通手段との組み合わせ(マルチモーダル交通※2)」が、どのような相乗効果を生むのかを検証しました。
研究の内容
本研究では、2024年10月1日から2025年2月28日にかけて実施された実証実験(第3弾)において、モバイルヘルスケアアプリ「へるすまーと泉北※3」のユーザーデータを活用しました。分析には、1,673人のデータから「傾向スコアマッチング※4」と「差分の差分法※5」という統計的手法を用い、オンデマンドバス利用者と非利用者の各129人における歩数変化を比較しました。
その結果、オンデマンドバスと路線バスを同一行程で組み合わせて利用したグループ(マルチモーダル利用者)は、実証実験期間中、そうでないグループに比べて、1日あたり平均1,730.74歩(95%信頼区間:130.52~3,330.96歩)も歩数が増加していました。
一方で、オンデマンドバスと鉄道を組み合わせた場合には、有意な歩数増加効果は確認されませんでした。これは、オンデマンドバスが鉄道駅へのアクセスよりも、地域内の路線バス網を補完する役割として機能し、外出頻度そのものを高めたためと考えられます。
また、マルチモーダル利用者へのアンケートでは、利用理由として「移動時間の短縮」や「利便性向上」が多く挙げられ、「健康増進」という回答は少数でした。これは本人の健康意識に関わらず、自然と身体活動量が増加する「ポピュレーションアプローチ」としての有効性を示唆しています。
さらにオンデマンドバス利用者は、路線バスの利用頻度も有意に増加しており、オンデマンドバスが路線バスの利用を奪うのではなく、むしろ促進していることがわかりました。

図 オンデマンドバスの運行が歩数に与えた影響
期待される効果・今後の展開
本研究成果は、MaaS(Mobility as a Service)※6の推進において、「既存交通(路線バス)と新規交通(オンデマンドバス)の接続」が、住民の健康増進に極めて高いクロスセクター効果(交通政策が健康政策にもなる)をもたらすことを示しています。今後、日本の多くのニュータウンや地方都市において、オンデマンドバスを単独で導入するだけでなく、既存のバス路線網と有機的に結びつける再編を行うことで、住民の外出促進と健康寿命の延伸が同時に達成できると期待されます。
資金情報
本研究は、JSPS科研費(24K17421)、JST COI-Next(住民と育む知的インフラ共創拠点JPMJPF2115)、大阪公立大学(OMU-SRPP2025_YR05)の支援を受けて実施しました。
用語解説
※1 泉北ニュータウン地域におけるオンデマンドバスの実証実験:泉北ニュータウン地域における住民の移動課題解決のため、南海電気鉄道・南海バス・堺市等が連携し2022年度より実施。本研究で分析した実証実験(第三弾)は、2024年10月1日から2025年2月28日に実施された。(https://www.nankai.co.jp/news/240911_1.html)
※2 マルチモーダル交通:路線バス、鉄道、オンデマンドバスなど、複数の異なる交通手段を組み合わせて目的地まで移動すること。
※3 へるすまーと泉北:南海電気鉄道が提供する、泉北ニュータウン地域の居住者及び来訪者向けのmobile Health (mHealth)アプリ。日常的に貯めた歩数を、デジタルきっぷ等に利用することができ、2026年1月時点で1万4千人以上のユーザーが利用している。(https://healthsmart-senboku.com/)
※4 傾向スコアマッチング:介入群と非介入群を、できるだけ似た特徴の人同士で比較できるように揃える方法。
※5 差分の差分法:介入前後の変化量を、介入群と非介入群で比較する方法。
※6 MaaS(Mobility as a Service):さまざまな交通手段をひとつのサービスとしてまとめ、アプリなどを通じてシームレスに利用できるようにする概念。
掲載誌情報
【発表雑誌】 Transportation Research Interdisciplinary Perspectives
【論文名】 Synergistic Association between Multimodal Transport and Demand-Responsive Transportation on Daily Walking Steps: Quasi-Experimental Study in Senboku New-Town
【著者】 Haruka Kato
【掲載URL】 https://doi.org/10.1016/j.trip.2026.101862
研究内容に関する問い合わせ先
大阪公立大学大学院 生活科学研究科
講師 加登 遼(かとう はるか)
E-mail:haruka-kato[at]omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
報道に関する問い合わせ先
大阪公立大学 広報課
担当:久保
TEL:06-6967-1834
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
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