最新の研究成果
過疎地域指定政策、20年後から人口減少の可能性-全国中小自治体データから政策の長期的影響を分析-
2026年7月22日
- 生活科学研究科
- プレスリリース
発表者
大阪公立大学大学院生活科学研究科都市科学研究室 加登 遼准教授
概要
本研究は、中小自治体※1を対象に、過疎地域指定政策※2が人口と雇用に与える影響を検証しました。1980~2020年の1,561の自治体パネルデータ※3を用い、指定後最長30年間の変化を分析した結果、指定から約20年が経過した頃から、指定されていない自治体と比較して、人口が有意に減少し始めることを明らかにしました。また、就業者の総数もこの人口減少と同様に減少した一方、居住自治体内で働く就業者数(自市町村内就業者数)には変化がみられませんでした。
これらの結果は、地域を「過疎地域」に指定するだけでは、中小自治体の構造的な人口・経済の縮小を反転させる、あるいは食い止めることは難しいことを示しています。

本研究成果は、2026年7月11日に国際学術誌「Cities」にオンライン掲載されました。
ポイント
- 全国1,561の中小自治体を対象に、過疎地域指定政策の短期・長期的影響を、指定後最長30年間にわたり検証。
- 指定から15年後までは人口や雇用に有意な影響はみられないが、約20年後を境に人口が有意な減少に転じることを確認。
- 就業者数も人口減少と同様に減少する一方、自市町村内就業者数は全体では変化しない。
<研究者コメント>
日本の過疎地域指定政策は、諸外国の地域振興策と比べても、財政・雇用・生活基盤にわたる包括的な支援を半世紀以上続けてきた、国際的に先駆的な政策です。本研究は、こうした包括的な政策であっても人口減少を必ずしも押しとどめられるわけではなく、むしろ長期的には人口や就業者の減少が顕在化しうることを示した点に意義があります。今後は、人口減少を受け入れながら、住民のウェルビーイングと持続可能なサービスの確保を目指すスマートデクライン※4の視点が、中小自治体において重要です。

加登 遼准教授
研究の背景
人口減少と少子高齢化が進む日本では、全自治体の約9割を占める中小自治体の多くが、深刻な人口流出に直面しています。日本は1960年代から「過疎」を政策課題として認識し、1970年代以降、過疎地域を指定して財政支援や雇用促進、道路・水道・情報通信などの生活基盤整備を行う過疎地域指定政策を、半世紀以上にわたり展開してきました。この政策は、社会・財政・産業・インフラという複数の領域にまたがる包括的な政策パッケージであり、中小自治体を対象とした政策として国際的にも先駆的なものです。こうした複数領域にわたる包括的な政策が中小自治体の持続可能性に有効であると考えられてきました。その一方で、フランスやスペインなど諸外国の類似政策では、人口や雇用への明確な効果は確認されていませんでした。
研究の内容
本研究では、全国1,561の中小自治体を対象に過疎地域指定政策が人口と雇用に与える影響を、長期にわたり検証しました。1980~2020年の国勢調査に基づく自治体パネルデータを構築し、自治体によって過疎地域への指定時期が異なることを活用して、staggered Difference-in-Differences※5により指定後の変化を推計しました。分析対象は、総人口、就業者数、および自市町村内で働く就業者数です。
その結果、指定後の期間全体を平均すると、過疎地域指定政策は、総人口、就業者数、自市町村内就業者数のいずれにも有意な影響を与えていないことがわかりました。しかし、時間の経過に沿って効果を追跡すると、指定から約20年を経過した頃から人口が有意に減少し、その後も減少幅が拡大していくことが明らかになりました。就業者数についても、人口減少と同様に20年後以降に減少していました。一方で、自市町村内で働く就業者数は、20年を経ても大きな変化はみられませんでした。
本研究では、長期的な人口減少の背景として、二つのメカニズムを考察しています。一つは、「過疎地域」という指定が地域に負のイメージを与え、移住者や企業、投資を呼び込みにくくしている可能性です。もう一つは、外部からの財政支援が長期化することで、地域が補助金に依存し、自律的かつ革新的な取り組みが生まれにくくなる可能性です。本研究成果は、自市町村内の就業者数だけに注目していると、総人口や就業者数全体の減少を見落としかねないことを示しています。
期待される効果・今後の展開
本研究は、複数の領域にまたがる包括的な政策パッケージである過疎地域指定政策であっても、中小自治体の構造的な人口・経済の縮小を反転・安定化させることは難しいことを示しました。これは、政策のあり方を根本から問い直す必要があることを示す知見です。今後は、人口減少を許容しつつ、住民のウェルビーイングの向上や地域のレジリエンスを重視する「スマートデクライン」の視点が重要になると考えられます。
資金情報
本研究は、JSPS科研費(JP24K17421,JP23K26284)の支援を受けて実施しました。
用語解説
※1 中小自治体:本研究では、政令指定都市・中核市・施行時特例市を除く、人口約20万人未満の自治体を対象とした。日本に1700以上ある自治体のうち、約9割を中小自治体が占めている。
※2 過疎地域指定政策:人口減少や高齢化が著しい地域を「過疎地域」に指定し、財政支援や雇用促進、道路・水道・情報通信などの生活基盤整備を行う日本の政策。1970年代に始まり、社会、財政、産業、インフラの複数領域にまたがる包括的な内容へと拡充されてきた。
※3 パネルデータ:同じ自治体を継続的に追跡したデータ。
※4 スマートデクライン:人口減少を前提に、住民のウェルビーイングと持続可能性を重視する都市計画の考え方。検証事例:プレスリリース「人口減少都市住民の生活満足度を支える要因を解明-スマートデクラインに向けた新知見-」
(https://www.omu.ac.jp/info/research_news/entry-24509.html)
※5 staggered Difference-in-Differences:政策導入時期が自治体ごとに異なる場合に対応した差の差分析手法。導入前後の変化を、まだ導入していない自治体などと比較することで、政策の影響を推計する。
掲載誌情報
【発表雑誌】 Cities
【論文名】 Impact of depopulated area designation policy on the population and employment in Japanese small and medium-sized cities
【著者】 Haruka Kato
【掲載URL】https://doi.org/10.1016/j.cities.2026.107231
研究内容に関する問い合わせ先
大阪公立大学大学院生活科学研究科
准教授 加登 遼(かとう はるか)
E-mail:haruka-kato[at]omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
報道に関する問い合わせ先
大阪公立大学 広報課
担当:久保
TEL:06-6967-1834
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
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