小児整形外科グループ

小児整形外科グループ

小児整形外科では、新生児から青年期にいたる小児の運動器(骨、関節、筋肉、靭帯など)に関係する疾患の治療を行います。成人とは異なり小児では成長を考慮して治療を行わなければならず、成長が終了する時期を見据えて長期的な治療戦略を立てながら適切な治療を行う必要があります。当科では診断・治療において超音波診断装置や内視鏡などを活用し、低侵襲を原則とした診療を行っています。

小児の疾患は大きく分けると先天性疾患(生まれつきみられるもの)、後天性疾患(生まれてから生じるもの)に分けられ、当科では様々な疾患を扱っています。主な対象疾患としては発育性股関節形成不全(先天性股関節脱臼)、先天性内反足、先天性膝関節脱臼、手足の先天異常(多指症、合指症、母指形成不全、橈尺骨癒合症(とうしゃっこつゆごうしょう)など)、筋性斜頚、環軸関節回旋位固定、下肢のアライメント異常(O脚、X脚など)、脚長不等、ペルテス病、大腿骨頭すべり症などが挙げられます。それ以外に、外傷性疾患(新鮮骨折、変形癒合など)、炎症性疾患(単純性/化膿性股関節炎など)、骨系統疾患(骨形成不全症、軟骨無形成症など)、神経性疾患(脳性麻痺など)など、小児の運動器に関わる全ての疾患が含まれます。

当院の小児科、整形外科だけでなく、地域の医療機関や各検診機関とも連携しながら専門的な医療を行っています。より専門的な治療を必要とする疾患(脊柱側弯症、スポーツ障害、骨軟部腫瘍など)に関しては、成人整形外科の専門スタッフと協力して診療にあたっています。

対象疾患および手術療法

  • 発育性股関節形成不全

    以前は先天性股関節脱臼と呼ばれていましたが、生まれる前に脱臼しているものだけでなく生まれてからの環境要因などで脱臼するものもあり、現在は発育性股関節形成不全と呼ばれています。1000人に1-3人の割合で発生し、女児(男女比1:5-9)、骨盤位、秋冬生まれ、家族歴などが脱臼の危険因子といわれています。開排制限、大腿皮膚溝(しわ)の左右非対称、脚長差などは脱臼を疑うサインです。当科では超音波(エコー)検査で診断を行っています。超音波検査では単純X線検査では描出されない軟骨なども描出でき、被爆・侵襲もないので有用な検査法です。生後6か月以降では骨化がすすんでくるため、単純X線検査を用います。治療については、生後5-6か月ごろまでに診断された場合は一般的にはリーメンビューゲル装具による治療を行います。入院のうえ牽引治療が必要な場合もあります。装具や牽引治療を行っても整復困難の(脱臼を戻せない)場合は手術を検討します。当科では治療後の遺残変形に対しても、装具治療や手術(骨切り術)を行っています。

  • 先天性内反足

    生まれつきの足の変形で、原因はいまだ不明です。 ①尖足 ②後足部内反 ③前足部内転 ④凹足 の4つの変形からなり、1000人に1人の割合で発生し、男児(男女比2:1)に多いとされています。片足例と両足例の発生頻度はほぼ同じです。自然治癒することはなく、治療開始が遅れると難治性になるので早期からのギプスでの変形矯正を開始します。Ponseti法というギプス治療が世界的に主流となっており、良好な成績が報告されています。当科でもPonseti法を用いて早期からの変形矯正を行っています。週1回程度の間隔でギプスを巻き替え、徐々に変形を矯正していきます。多くの場合、最後のギプスを固定する前にアキレス腱皮下切腱術を行います。ギプス治療終了後は4歳ごろまで装具を装着します。足の変形の再発傾向がある場合は、追加の手術が必要になることがあります。

    発育性股関節形成不全(先天性股関節脱臼)
    先天性内反足
  • 手足の先天異常 (母指多指症、合指 (趾) 症など)

    指 (趾) が完全に分かれたもの、部分的に分かれたもの、くっついたもの、母指(親指)や小指の外側に袋状についているものなど、様々な形態があります。個人差はありますが、一般的には1歳頃に手術が行われます。単純に切除(切離)するのではなく、残された組織を温存して、できるだけ正常に近い構造を作る手術を行います。成長に伴い変形が生じることがあり、追加の手術が必要になることがあります。その他、四肢の形態に合わせ、専門的な治療が行われます。

    母指多指症
    母指形成不全
    橈側列形成不全(とうそくれつけいせいふぜん)
  • 筋性斜頸

    片側の胸鎖乳突筋という首の筋肉が固く縮んで首が傾いている状態です。筋肉が縮んでいる側に頭部が傾き、顔は反対側に回旋します。原因としていくつかの説はありますが、いまだ不明です。新生児期に頚部の腫瘤(しこり)に気づかれることが多く、腫瘤は生後2-3ヶ月で最も大きくなりますが、その後徐々に消退します。マッサージを行われていた時期もありましたが、かえって症状を増強させるということで現在は行われていません。1-2歳までに筋性斜頚の約90%が自然に治ります。その時期を超えても改善しない場合は手術を行います。

  • O脚・X脚

    O脚は両側の膝関節が外側凸に弯曲した変形で、左右の 足関節内果 ( そっかんせつないか ) (内くるぶし)を接触させても左右の膝が接しません。反対にX脚は両側の膝関節が内側凸に弯曲した変形で、左右の膝を接触させても左右の足関節内果が接しません。小児では下肢のアライメント(位置関係)は成長に伴い変化し、1歳6か月-2歳ごろまではO脚、3-4歳でX脚、7歳ごろに成人の下肢アライメントに近くなります。変形が年齢相応で病的な変化がなければ治療の必要はありませんが、変形が高度の場合は原因検索(くる病やBlount病など)や装具、手術が必要になることがあります。

    下肢変形
  • ペルテス病

    大腿骨で最も端にある大腿骨頭骨端部が壊死・変形してしまう病気です。原因は明確には分かっていませんが、成長期における大腿骨頭の血流障害が関与していると考えられています。初期には、股関節や膝関節周囲の痛み、跛行(はこう)可動域制限がみられます。診断は単純X線検査やMRI検査によって行い、骨頭の壊死範囲や変形の程度を評価します。治療は年齢、病期や重症度によって異なりますが、骨頭を臼蓋内に保持することが治療の基本であり、装具療法や牽引療法、手術療法を行います。当科では、病状に応じて適切な治療選択を行い、将来的な関節機能の温存を目指しています。

  • 大腿骨頭すべり症

    成長期に大腿骨頭部にある成長軟骨板(骨端線)がずれてしまう疾患です。肥満やスポーツ、ホルモン異常との関連が考えられていますが、原因は不明です。症状は軽い痛みから歩けないほどの痛みまであります。診断は単純X線検査やMRI検査によって行いますが、早期の診断・治療が重要です。治療は螺子で骨頭を固定する手術(内固定術)が一般的です。重度のすべりや股関節の機能障害を伴う場合には、骨切り術など追加の手術が必要になることがあります。

    大腿骨頭すべり症
  • 四肢変形 (変形治癒骨折など)

    小児の骨折は、成長とともに自然に治癒しやすいという特性がありますが、骨折のずれが大きいまま治癒すると、骨の変形を残すことがあります。これを「変形治癒」と呼びます。特に肘周囲の骨折では、保存的に治療された後に、内反肘(肘が内側に曲がる)や外反肘(外側に曲がる)といった変形が残ることがあります。変形が軽度であれば、機能的な支障がないため、経過観察が選択されますが、変形が重度な場合には、見た目の問題に加え、運動機能障害や神経障害を引き起こす可能性があり、矯正骨切り術を含めた手術を検討することになります。当科では、成長予測を踏まえたうえで、必要に応じてレントゲンやCTによる詳細な評価を行い、見た目と機能のバランスを考慮した治療計画を立てています。

    内反肘変形(ないはんちゅうへんけい)
    下肢短縮・変形

スタッフ

  • 新谷 康介Kousuke Shintani
    研究者情報
    専門分野手・肘・小児整形
    2009年 愛媛大学医学部卒業
    2018年 Institut de la main Clinique Bizet, Necker-Enfants Malades Hospital, France Department of Hand Surgery and Peripheral Nerve Surgery, Royal North Shore Hospital, Australia
    2024年 大阪公立大学大学院 整形外科 病院講師
    2025年 大阪公立大学大学院 整形外科 講師

その他の活動

  • 日本小児整形外科学会健診委員会キーパーソン
  • 日本小児股関節研究会 幹事
  • 近畿小児整形外科懇話会 世話人
  • 小児整形外科症例検討会:近畿小児施設により行われる症例検討
  • 日本小児整形外科学会、日本手外科学会、日本肘関節学会、日本足の外科学会など

小児整形外科は、整形外科の中で唯一、年齢によって専門性が規定された領域であり、新生児から成長期に至る様々な運動器疾患を対象としています。当グループでは、小児期の成長・発達段階で生じる疾患に対して、予防、早期発見・治療、低侵襲かつ質の高い医療の提供を目指し、臨床研究および基礎研究に取り組んでいます。

成長と発達を支える先進的な小児整形外科医療に向けて

発育性股関節形成不全(DDH、以前の先天性股関節脱臼)、大腿骨頭すべり症(SCFE)、ペルテス病といった小児股関節疾患をはじめ、四肢外傷、外傷後変形、先天異常、骨系統疾患など、多岐にわたる小児整形外科疾患を対象とした研究を推進しています。

DDHに関しては、都市部における早期診断体制の整備、超音波検査法、関節鏡視下手術の臨床応用、治療後の長期予後(生活機能とQOL)に関する研究を進めてきました。SCFEにおいては、全国規模の多施設共同研究を主導し、初期治療の最適化や骨切り術後のリモデリング、内固定材料が成長に与える影響に関する臨床研究、また大腿骨頭壊死(AVN)の発症を防ぐための血流評価法の確立を目指した基礎研究に取り組んでいます。また、小児肘周辺骨折に関する研究をはじめ、外傷後変形治癒に対する治療戦略(成長に伴う変形の予測、骨端抑制術の応用、創外固定器やコンピュータシミュレーションを活用した矯正骨切り術)、虐待による外傷の解析などを進め、診療の質と安全性の向上を目指しています。

これらの研究成果は、日本整形外科学会をはじめ、日本小児整形外科学会、日本手外科学会、日本足の外科学会など多数の学会で発表しており、国内外の学術誌への論文投稿も行っています。小児整形外科における診療と研究のさらなる発展を目指し、臨床医学と基礎医学とを有機的に結びつけていきたいと考えています。

大腿骨頭すべり症(SCFE)に関する研究

外傷、四肢変形に関する研究