脊椎グループ

脊椎グループ

私たち大阪公立大学脊椎外科クリニックは、大学病院としての使命である「最新かつ最高水準の脊椎外科医療の提供」を掲げ、患者さん一人ひとりに寄り添った丁寧な医療を心がけています。

当院の脊椎外科診療の大きな特徴は、乳幼児から高齢者まで、あらゆる年齢層および多様な病態を対象とした脊椎疾患の治療を行っている点にあります。これは、これまで当院で培われてきた脊椎外科診療の伝統と、専門性の高いスタッフ陣の充実によって支えられており、私たちは全国でもトップクラスの脊椎外科医療を提供しているという自負を持っています。

当院では、幅広い脊椎疾患に対して多様な手術治療を行っていますが、特に身体への負担を抑えた「低侵襲手術」に力を入れていることが大きな特長です。脊椎内視鏡手術については25年以上の実績があり、近年ではさらに小径の内視鏡を用いたBiportal(バイポータル)方式の最新手術法を、全国に先駆けて導入しています。また、近年増加している脊椎固定術においても、O-armナビゲーションシステムなどの先進的な機器を活用することで、安全性と精度を高めた手術を提供しています。

対象疾患および手術療法

対象疾患

頭頸移行部病変 軸椎亜脱臼、垂直亜脱臼、歯突起関連病変、回旋位固定など
頚椎 頚椎症性脊髄症、頚椎椎間板ヘルニア、後縦靭帯骨化症、神経根症など
胸椎 黄色・後縦靭帯骨化症、胸椎椎間板ヘルニア、骨粗鬆症性椎体骨折など
腰椎 椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄、変性すべり症、分離すべり症、変性側弯症など
脊柱変形 特発性・先天性側弯症、成人脊柱変形
脊髄腫瘍 神経鞘腫、神経線維腫、髄膜腫、上衣腫、海綿状血管腫、脂肪腫、空洞症など
脊椎腫瘍 転移性・原発性腫瘍
炎症性疾患 化膿性脊椎炎、結核性脊椎炎、透析性脊椎症
脊髄損傷、先天奇形、脊髄係留症候群など

代表的疾患に対する治療

  • 腰部脊柱管狭窄症(変性すべり症を含む)

    腰脊の後方部分には脊柱管と言われる神経の通り道が存在します。この通り道が狭くなる病態を腰部脊柱管狭窄症といいます。特徴的な症状として、一定の距離を歩くと足から下腿、大腿にかけてしびれや痛みが出現し、少し前屈みで休むと症状が軽快し、再び同じ距離を歩けるようになる「間歇性跛行」がみられます。治療では、消炎鎮痛剤や末梢循環改善薬の内服および注射、さらに理学療法を行います。これらの保存的治療で十分な効果が得られない場合には、手術が必要となることもあります。一般的に腰部脊柱管狭窄症の手術では、狭窄している神経の通り道を左右から骨を削って広げる方法が行われます。これに対して当院では、内視鏡や顕微鏡を用い、片側のみ骨を削ることで反対側まで通り道を広げる低侵襲な手術を行っています。この方法は、不安定性を伴わない変性すべり症にも適応可能です。片側の背部筋のみを剥離するため、筋肉への侵襲が少なく、術後に持続する腰痛の軽減にもつながります。

    複数ポータル式灌流型脊椎内視鏡(BESS, UBE)
    左:顕微鏡、右:従来の内視鏡
    内視鏡手術の図 片方から骨を削り両側の神経圧迫を取り除きます腰部脊柱管狭窄に対する内視鏡手術
    左:術前CT、右:術後CT
  • 側弯症(小児)

    小児の側彎症はまずは装具での治療となります。当科では側弯の曲がり方や年齢によって様々な装具を取り揃えています。カーブが大きい場合には手術が必要になる事もあります。側弯症などの脊柱変形の手術は強い矯正力のあるさまざまなインプラントを用いて行っています。当科では、椎弓根スクリューを使用してより高い矯正を目指して治療しています。また、基本的にはO-armナビゲーションや電気生理検査を用いた脊髄機能モニタリングを併用し、手術によるインプラントの不具合や神経損傷(脊髄損傷)などの合併症を未然に防ぐ対策を行っております。

    左:術前の単純X線、右:術後の単純X線
  • 腰椎分離症(小児)

    子供に発症する腰椎の疲労骨折の一種です。部活などスポーツを頑張っている子供に多く、腰痛の原因となります。発症早期で軽度であれば、装具治療やスポーツの中止などで治癒します。しかし完全な分離になると手術が必要になります。手術は分離部を修復する手術となります。骨が癒合して治癒すれば基本的にはインプラントも抜去します。

    左:術前CT(矢印:分離部で骨が離れています)
    中:術後X線画像
    右:術後CT(矢印:分離部に骨移植が行われ、骨癒合が得られています) 
  • 変性腰椎後側弯症

    変性腰椎後側弯症は、加齢に伴う椎間板や椎体の変性によって発症する、高齢者に特徴的な後弯・側弯変形です。腰背部痛や歩行困難、下肢の神経症状が主な訴えとなります。進行すると立っている事も困難になったり、胃部不快感から食欲が低下したりする事もあります。

    当教室では、側方経路腰椎椎体間固定術、骨盤アンカーを含む矯正固定術や、骨粗鬆症に配慮した再建手術を通じて、患者さんの姿勢改善・移動能力向上・生活の質の回復を目指しています。症例に応じて、低侵襲性と固定性のバランスに配慮した治療を選択しています。

    この手術は高齢者にとっては大きな負担となります。また術後に前屈みの動作も制限されますので、患者さんと相談して慎重に手術を決めております。

  • 骨粗鬆症性椎体骨折

    骨密度が基準値以下になると骨粗鬆症という病気になり、わずかな衝撃でも骨折しやすくなります。骨密度が低下すると、軽微な外傷や日常動作の中で脊椎が徐々に潰れてしまうことがあり、特に胸椎や腰椎、その移行部に多く見られます。これを骨粗鬆症性椎体骨折といいます。この骨折は非常に強い痛みを伴いますが、通常は潰れた椎体はそのままの形で癒合し、軽度の変形を残しながらも自然に治癒し、疼痛も次第に軽減していきます。しかし、一部の症例では骨がうまく癒合せず、偽関節という状態になることがあります。当科では、全身麻酔下にレントゲン透視を用いながら、経皮的に骨セメントを注入して、偽関節部の安定化を図っています。また、骨折の形態により使用できないこともあり、その場合は矯正固定術を行うことあります。

    経皮的椎体形成術左:術前のCT、
    右:術後のCT(バルーンで拡張した椎体内にセメントを注入します)
    骨折椎体の椎体置換術左:術前の全脊柱単純X線
    右:術後の全脊柱単純X線
  • 脊髄腫瘍

    硬膜内髄外腫瘍には神経鞘腫や髄膜腫が多く、上位頸髄に発生する例もみられます。これらに対して、術中モニタリングや超音波を用いた手術支援機器を活用し、顕微鏡下での安全な摘出を行うことで良好な治療成績を得ています。

    また、脊柱管内外に広がるダンベル腫瘍では、脊柱の安定性に関与する椎間関節を切除する必要が生じることがあり、その場合には固定術を併用しています。

    硬膜内神経鞘腫の術中写真
    硬膜外腫瘍のMRI(矢印:腫瘍)
    摘出腫瘍の写真と術後単純X線
  • 転移性脊椎腫瘍

    脊椎は、がんの転移が生じやすい部位のひとつです。転移により脊椎の骨が脆くなって骨折を引き起こし、強い痛みを伴うことがあります。また、腫瘍が神経を圧迫することで、麻痺などの神経症状が現れる場合もあります。

    こうした症状に対しては、インプラントや骨セメントを用いて脊椎を安定化させるとともに、麻痺の進行を防ぐための除圧固定術が必要となることがあります。さらに、原発がんの性質や全身状態によっては、転移した椎体そのものを摘出する腫瘍脊椎骨全摘術を行うこともあります。

    当院はがん診療連携拠点病院として、これらの病態を早期に把握し、迅速に対応できる体制を整えています。特に「骨転移キャンサーボード」を定期的に開催しており、原発がんを担当する診療科をはじめ、整形外科、放射線治療科、緩和ケア科、麻酔科、リハビリテーション部、看護部などの多職種が連携して治療方針を検討しています。専門領域の枠を超えた議論を通じて、患者様一人ひとりに最適な治療を提案できる体制を整えています。

    胸椎転移に対する除圧固定術(術前MRIと術後X線写真)
    胸椎転移に対する腫瘍椎体骨全摘術(術前MRI、CTと術後X線写真)
    骨転移キャンサーボードのようす
  • 環軸椎亜脱臼

    頸椎は7個の椎骨で構成されていますが、第1頚椎である環椎が第2頚椎である軸椎に対して前方にずれる病態です。関節リウマチ、ダウン症候群、歯突起形成不全、後頭環椎癒合症などに合併します。手術加療は神経症状が高度な場合や強固な後頸部痛が持続する場合に適応となります。基本的には金属を用いた固定術を行いますが、環軸椎近傍を通る椎骨動脈の走行は個人差があるため、術前に血管造影検査が必要です。

    血管造影CT
    環軸椎亜脱臼に対する環軸椎固定術:術前後の単純X線側面
  • 頚椎症性脊髄症

    頸椎に加齢性変化が生じ(頸椎症)、これにより脊髄の症状(脊髄症)を生ずる年齢性の病気です。症状が進行すると、手の細かな運動が困難(箸が持ちにくい、字が書きにくい、ボタンがはめにくい等)になったり、脚が突っ張って歩きにくい、階段を下りにくい、上下肢に力が入りにくい、上下肢および体幹のしびれなど、全身に症状が出現します。手術は後方法と前方法がありますが、画像所見や臨床症状によってどちらを選択するか決めています。特に前方法を選択する場合には手術用顕微鏡を用いて神経に対して愛護的操作を心がけ、可能な限り安全な操作を心がけています。

    頚椎MRI矢状断
    左:術前、右:術後
    片開き椎弓形成術:人工骨(ハイドロキシアパタイト:矢印)
    スペーサーを使用して脊柱管拡大を保持しています。
  • 頚椎椎間板ヘルニア

    頚椎の骨の間には椎間板と呼ばれる構造が存在します。椎間板はクッションのように働き、椎骨同士の衝撃を吸収する役割を担っています。何らかの外力でこの一部分が後方へずれると、腕の痺れや痛み、ひどくなると下肢にも症状が出ます。お薬や局所安静などで改善しない場合は手術が必要になります。一般的には椎間板を摘出し、ご自身の骨をインプラントと共に設置する前方手術を行います。最近では頚椎の動きを温存できる人工椎間板というインプラントを使用する事もあります(図)。

    頚椎MRI矢状断
    左:術前、右:術後
  • 頸椎後縦靭帯骨化症

    頸椎後縦靱帯とは椎体の後面に沿って上下の椎体と連続している靱帯で、脊髄の前方に存在します。頸椎後縦靱帯骨化症とは柔らかい靱帯が骨に置き換わって、徐々に厚さを増し、脊髄を圧迫するという病気です。男性に多くみられます。症状は頸椎症性脊髄症と同じく脊髄の症状が主ですが、後縦靱帯の骨化は徐々に起こるため症状が出現しにくく、高度に脊髄が圧迫されて、初めて症状が出現することもあります。症状が軽度な場合には、保存的加療(投薬、安静、リハビリテーションなど)で経過観察していますが、症状が進行性の場合には手術加療の適応となります。当科では病巣範囲に応じて前方法または後方法を選択しています。病巣範囲が狭ければ、前方法で顕微鏡下に骨化靱帯を摘出、広ければ後方法を選択しています。

    左:術前ミエロCT(矢印:後縦靭帯骨化)、
    右:前方法の術後CT
  • 胸椎後縦靭帯骨化症

    後縦靭帯の骨化が胸椎レベルに生じる病気です。女性に多くみられ初期症状は下肢の脱力やしびれです。進行すると歩行障害、排尿障害が出現します。脊椎手術の中でも治療に難渋する疾患の一つです。最近は後方から単独で除圧固定術を行うことで安定した成績が得られています。

    左:術前CT(矢印:後縦靭帯骨化)、
    中:術後単純X線正面、右:術後単純X線側面
  • 腰椎椎間板ヘルニア

    腰椎は通常5つの椎骨で構成されており、その間には椎間板と呼ばれる構造が存在します。椎間板はクッションのように働き、椎骨同士の衝撃を吸収する役割を担っています。何らかの外力でこの一部分が後方へずれると、腰痛や下肢の疼痛、下肢のしびれが生じます。MRIによる診断が有効であり、急性期には安静や内服薬(鎮痛剤や筋肉弛緩剤)による保存療法を行います。症状の改善がみられない場合には、硬膜外注射や神経根ブロックなどを行いながら2〜3ヶ月経過を観察します。ヘルニアのタイプによってはヘルニコアというヘルニアを縮小させる注射を行います。それでも症状の軽減が得られない場合には、最終的に手術療法を検討します。当院では内視鏡視下にヘルニアを摘出しています。手術創も小さく、術後の創部痛も最小限に抑えられ、リハビリテーションも早期かつ円滑に行うことが出来ます。

    モニターを見ながらの内視鏡手術の実際
    腰椎MRI 腰椎椎間板ヘルニア
    左:術前(矢印がヘルニア)、右:術後
  • 腰椎分離すべり症・変性すべり症

    腰椎すべり症は、椎骨が前後にずれることで神経の通り道が狭くなり、腰痛や下肢の痛み、しびれなどを引き起こす、腰部脊柱管狭窄症の一病態です。保存的治療は腰部脊柱管狭窄症に準じて行われます。腰椎分離すべり症や不安定性の強い変性すべり症は固定術の適応となります。

  • 化膿性・結核性脊椎炎

    保存療法後に著変や神経障害がある場合、経皮内視鏡による低侵襲手術で対応可能なこともあります。また感染状況によっては感染した部分を取り除き、自家骨(ご自身の骨盤など)やインプラントを利用した手術が必要になる場合もあります。

    (術前MRIと術後X線写真)

スタッフ

  • 寺井 秀富Hidetomi Terai
    研究者情報
    専門分野脊椎
    1995年 東北大学医学部卒業
    1995年 近畿大学医学部麻酔科研修医
    1997年 大阪市立大学医学部整形外科
    1999-2001年 Research fellow in Surgery, Massachusetts General Hospital, Harvard medical School, USA
    2002年 大阪市立大学大学院 整形外科 病院講師
    2005年 大阪市立大学大学院 整形外科 講師
    2012年 Teaching and clinical staff in Wazir Akbar Khan Hospital, Kabul Medical University, Afghanistan (International Medical Corps, USA)
    2015年 大阪市立大学大学院 整形外科 准教授
    2022年 診療科部長
    2024年 主任教授
  • 鈴木 亨暢Akinobu Suzuki
    研究者情報
    専門分野脊椎
    2000年 大阪市立大学医学部卒業
    2012年 UCLA international spine fellow
    2013年 大阪市立大学大学院 整形外科 病院講師
    2016年 大阪市立大学大学院 整形外科 講師
    2025年 大阪公立大学大学院 整形外科 准教授・医局長
  • 豊田 宏光Hiromitsu Toyoda
    研究者情報
    専門分野脊椎
    1999年 大阪市立大学医学部卒業
    2009年 大阪市立大学大学院 整形外科 病院講師
    2012年 大阪市立大学大学院 整形外科 講師
    2021年 大阪市立大学大学院 総合医学教育学 准教授
  • 加藤 相勲Minori Kato
    研究者情報
    専門分野脊椎
    1997年 大阪市立大学医学部卒業
    2021年 大阪市立大学大学院 整形外科 講師
  • 高橋 真治Shinji Takahashi
    研究者情報
    専門分野脊椎
    2005年 大阪市立大学医学部卒業
    2013年 UCLA international spine fellow
    2016年 大阪市立大学大学院 整形外科 病院講師
    2023年 大阪公立大学大学院 整形外科 講師
  • 玉井 孝司Koji Tamai
    研究者情報
    専門分野脊椎
    2008年 大阪市立大学医学部卒業
    2017年 University of Southern California, Visiting researcher
    2020年 大阪市立大学大学院 整形外科 病院講師
    2025年 大阪公立大学大学院 整形外科 講師