最新の研究成果

細胞膜表面にRBDを発現するレプリコン(次世代mRNA)ワクチンで新型コロナウイルス感染症(COVID-19)変異株に広範・持続的な免疫の誘導に成功:他のパンデミック病原性ウイルスに対する基盤技術としての応用にも期待

2023年5月22日

  • プレスリリース
  • 医学研究科

ポイント

◇新型コロナウイルスSタンパク受容体結合ドメイン(RBD)を細胞膜上に発現させるレプリコンワクチン1をデザインし、開発を行った。
◇RBDを細胞膜表面に発現させると、分泌型のRBDを発現させた場合と比較してより高い免疫がマウスで誘導された。また、ガンマ株のRBDを用いると、武漢株のRBDと比較してより広範かつ持続的な中和抗体価が誘導された。
◇ハムスターおよび霊長類モデルを用いた攻撃接種実験2において、ワクチン防御効果が確認された。また、変異株に対する抗体が、霊長類モデルで少なくとも12ヶ月間維持された。

概要

国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所、VLP Therapeutics Japan株式会社、独立行政法人国立病院機構名古屋医療センター、国立大学法人北海道大学大学院医学研究院、公立大学法人大阪 大阪公立大学の研究グループは、細胞膜表面に新型コロナウイルス受容体結合ドメイン(RBD)を発現するレプリコン(次世代mRNA)ワクチンを開発しました。

本研究で、このレプリコンワクチンの免疫は、霊長類モデルにおいて効率的にT細胞およびB細胞応答を誘導することが分かりました。武漢株またはガンマ株 RBDで免疫したハムスターと霊長類では、新型コロナウイルス武漢株に対する防御効果を示しました。また、変異株に対するRBD特異的な抗体が、霊長類モデルで少なくとも12ヶ月間維持されることが分かりました。これらの結果から、このレプリコンプラットフォームは、今後のコロナウイルス変異株に対して持続的な免疫を誘導する有用なワクチン候補となり得ると考えられます。本成果は、今後の変異株に対するワクチン開発戦略としてだけでなく、他のパンデミック病原性ウイルスに対する基盤技術としての応用可能性が期待されます。

本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)ワクチン開発推進事業「自己増殖RNAテクノロジーを用いたわが国における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するワクチン開発」の一環として行われました。

本研究成果は519日、英科学誌Nature Communications(電子版)で公開されました。

掲載誌情報

【論文名】saRNA Vaccine Expressing Membrane-Anchored RBD Elicits Broad and Durable Immunity Against SARS-CoV-2 Variants of Concern.

雑誌名】Nature Communications

【著者】Mai Komori+, Takuto Nogimori+, Amber Morey, Takashi Sekida, Keiko Ishimoto, Matthew Hassett, Yuji Masuta, Hirotaka Ode, Tomokazu Tamura, Rigel Suzuki, Jeff Alexander, Yasutoshi Kido, Kenta Matsuda, Takasuke Fukuhara, Yasumasa Iwatani, Takuya Yamamoto*, Jonathan F Smith*, Wataru Akahata*+ 筆頭著者|* 責任著者)

用語説明

※1 レプリコン(次世代mRNA)ワクチン…少量の接種で十分な抗体が作られる、自己増殖型のmRNAsaRNA)ワクチン。現行のmRNAワクチンと比べて10100分の1程度の接種量となることから、短期間で日本全人口分の製造が可能となることと、副反応が低減されることが期待される。新型コロナウイルス表面にある突起状のSタンパク質全体を抗原とする現行のワクチンと異なり、レプリコンワクチンはSタンパク質のうちウイルスが人の細胞に結合して感染するRBD(受容体結合部位)と呼ばれる部分のみを抗原にしている。そのため、不要な抗体を作らないことによる高い安全性と、多様なRBDへの抗体を作ることによる変異株への効果も期待される。

※2 攻撃接種試験…動物にワクチンを接種したのちにウイルスに暴露することでワクチンの予防効果を調べる試験のこと。

研究に関する問い合わせ先

国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所
難病・免疫ゲノム研究センター長
プレシジョン免疫プロジェクト プロジェクトリーダー
山本 拓也
TEL: 072-641-9819
E-mail:yamamotot2[at]nibiohn.go.jp
※[at]を@に変更してください。

報道に関する問い合わせ先

大阪公立大学 広報課
TEL:06-6605-3411
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。

該当するSDGs

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