最新の研究成果
ブラックホールの響きを、数学的な技法を取り入れ精密に捉えることが可能に
2025年7月8日
- 研究推進機構
- プレスリリース
ポイント
◇解析性の良い数学的な技法である「完全WKB解析※1」を物理学に取り入れた。
◇ブラックホールの準固有振動※2の周波数構造を、従来よりも体系的かつ精密に捉えることができる手法を示した。
概要
ブラックホールは極めて強い重力を持ち、光さえも脱出できない天体です。ブラックホールが何らかの影響を受けて揺れ動くと、「準固有振動」と呼ばれる特有の振動パターンの重力波※3を発します。例えば、ブラックホール同士が衝突すると、地球でも観測できるほど大きな重力波が放射されることがあり、ブラックホールの質量や形を知る手掛かりになります。合体したブラックホールがゆらぎながら小さくなる際、重力波は振動が急速に減衰しますが、この性質を体系的に記述することは複雑なため、より厳密な手法が望まれていました。
大阪公立大学数学研究所の宮地 大河特別研究員、理化学研究所 数理創造研究センターの難波 亮上級研究員、京都大学大学院理学研究科の大宮 英俊特定助教、京都大学 白眉センターおよび基礎物理学研究所の大下 翔誉特定助教らの研究グループは、数学的な技法である「完全WKB解析」を取り入れることで、急速に減衰するブラックホールの準固有振動の周波数構造を、体系的かつ精密に捉えることができる手法を示すことに成功しました。本研究結果により、さまざまな理論モデルにおけるブラックホールの重力波信号を、より厳密に解析できるようになり、今後の重力波観測の精度向上や、ブラックホールの正確な性質検証に結びつくことが期待されます。
本研究成果は、2025年6月24日に国際学術誌「Physical Review D」にオンライン公開されました。また、重要な研究成果として認められ、Editors’ Suggestionに選出されました。
らせん上で揺れ動くブラックホールのイメージ
完全WKB解析は、日本人数学者がその数学的基礎の確立に貢献しており、日本人研究者にとって優位性のある分野です。物理への応用は比較的最近進展し始めた段階で、今後の発展が期待されます。本研究がブラックホール物理への応用拡大の一助となれば幸いです。
宮地 大河特別研究員
掲載誌情報
【発表雑誌】Physical Review D
【論 文 名】Path to an exact WKB analysis of black hole quasinormal modes
【著 者】Taiga Miyachi, Ryo Namba, Hidetoshi Omiya, Naritaka Oshita
【掲載URL】https://doi.org/10.1103/1gmr-9f1g
用語解説
※1 完全WKB解析:WKB法(Wentzel–Kramers–Brillouin法)という複雑な微分方程式を近似的に解く手法で得られる級数は、発散することが多く、全体構造を捉えるには限界がある。完全WKB解析では、この発散級数をBorel和という手法で収束させ、解析性の良い解を導く。複素平面上での解の構造も扱うことができ、ブラックホールや量子系の解析において強力な手段となる。
※2 準固有振動:ブラックホールが固有に持つ振動パターンで、ブラックホールの質量(重さ)と角運動量(回転)のみで決まる振動数と減衰率を持つ。重力波観測においては、主に2つのブラックホールの合体後に形成されるブラックホールの質量や回転などの情報を読み取る重要な手掛かりとなる。
※3 重力波:アインシュタインの一般相対性理論により予言された、時空のゆがみが波として伝わる現象。ブラックホールや中性子星の合体などで発生し、2015年にアメリカの重力波望遠鏡LIGOによって初めて直接観測された。
資金情報
本研究は科研費(JP23KJ1543、JP23K25868、JP23H00110、JP23K13111)、公益財団法人 山田科学振興財団、京都大学白眉プロジェクト、国立研究開発法人理化学研究所2022〜2023年度独創的研究提案制度(奨励課題)の支援を受けて実施しました。
研究内容に関する問い合わせ先
大阪公立大学数学研究所
特別研究員 宮地 大河(みやち たいが)
E-mail:tmiyachi[at]omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
報道に関する問い合わせ先
大阪公立大学 広報課
担当:谷
TEL:06-6967-1834
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
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