最新の研究成果
リュウグウに残された“衝撃の痕跡”を再現! ― 実験で迫る原始太陽系小天体の衝突の記憶 ―
2025年8月6日
- 理学研究科
- プレスリリース
ポイント
◇小惑星リュウグウ※1に似た「CIコンドライト※2」という種類の隕石に小惑星同士の衝突を模擬した人工的な衝撃を加え、内部でどのような変化が起こるかを分析。その結果、リュウグウ粒子でも観察される“平行に密集した亀裂”や“泡を含むガラス質の構造”を再現することに成功。
◇約4ギガパスカル(GPa)※3以下の比較的弱い衝撃では、鉱物の構造にはほとんど変化が見られない。
◇4GPaを超えると、粘土鉱物などの“水を含む鉱物”や“炭素を含む物質”が急激に脱水・脱ガスし、その膨張圧力で岩石が割れやすくなる。さらに、10GPaを超える強い衝撃では、岩石の一部が溶けて泡を含んだアモルファス(ガラス状)物質が形成される。
◇リュウグウでは、衝突によって一部に強い圧力が加わり、水や炭素を含む鉱物が瞬間的に水分やガスを放出。それにより岩石の一部が一気に破砕して飛び散ったと考えられる。ただし、岩石全体が壊れるほどの衝撃は受けておらず、飛び散った破片が重力で再集合して、「がれきの山(ラブルパイル)※4」のような構造をつくった可能性が高い。
◇本研究成果により、小惑星リュウグウの形成過程が明らかとなり、太陽系初期の衝突と再集積のメカニズム、ひいては太陽系の進化過程の理解に重要な手がかりを提供した。
概要
広島大学、国立極地研究所、物質・材料研究機構(NIMS)、海洋研究開発機構高知コア研究所、京都大学、大阪公立大学を中心とする研究グループは、小惑星リュウグウに似た「CIコンドライト」という種類の隕石に小惑星同士の衝突を模擬した人工的な衝撃を加える実験を行いました。この隕石は、小惑星リュウグウと似た物質や化学組成を持っています。今回の実験により、リュウグウの粒子で確認された衝突による特徴を再現することに成功しました。
小惑星リュウグウに代表されるC型小惑星※5は、水を含んだ鉱物と炭素を含む岩石でできており、その構成は「CIコンドライト」と呼ばれる珍しい隕石に似ていると考えられています。今回の研究では、CIコンドライトに分類される世界的にも貴重な「オルゲイユ隕石」と、南極で発見されたCIコンドライトに似た隕石「Yamato 980115」を使って、隕石が衝突を受けたときにどのような変化が起こるのかを調べました。
その結果、約4ギガパスカル(GPa)以下の弱い衝撃では、岩石にほとんど変化が起こらないことがわかりました。これは、リュウグウの多くの粒子が比較的弱い衝撃しか受けていないという、これまでの説を裏付ける結果です。
一方、4GPaを超えると、水を含む鉱物や炭素を含む物質が熱によって水分やガスを放出し、ひび割れや破砕が進みます。さらに10GPaを超えると、岩石の一部が溶けて、泡のような空隙をもつガラス状の物質ができます。これは、水や二酸化炭素が衝撃の熱で抜け出した痕跡です。リュウグウの粒子の中には、ひび割れや小さな空隙を持つガラス状の物質も見つかっていますが、その割合はごくわずかです。今回の実験結果から、リュウグウの表面を覆う砂や小石(レゴリス)の大部分は、強い衝撃ではなく比較的弱い衝撃で壊れた岩石が集まってできた「がれきの山」であるという考えが、より確かなものとなりました。
図:リュウグウ粒子と衝撃実験後の隕石試料に見られる衝突の痕跡(電子顕微鏡写真)
この図は、リュウグウから回収された粒子と、人工的に衝撃を加えた隕石試料を電子顕微鏡で観察した写真です。どちらの試料にも、衝突によって生じた割れ目や、ガスが抜けてできた泡のような構造など、衝撃の痕跡が確認できます。これにより、リュウグウが過去の衝突で破壊され、その破片が再び集まってできたことが裏付けられます。
掲載誌情報
【発表雑誌】Earth and Planetary Science Letters
【論 文 名】Experimental constraints on the shock history of CI chondrites and Ryugu grains
【著 者】Toru Nakahashi, Masaaki Miyahara*, Akira Yamaguchi, Takamichi Kobayashi, Hitoshi Yusa, Masashi Miyakawa, Naotaka Tomioka, Yuto Takaki, Takaaki Noguchi, Toru Matsumoto, Akira Miyake, Yohei Igami, Yusuke Seto
【掲載URL】https://doi.org/10.1016/j.epsl.2025.119559
用語解説
※1 リュウグウ:JAXAの探査機「はやぶさ2」が探査し、2020年に試料を地球へ持ち帰ったC型小惑星。直径約900mの「がれきの山(ラブルパイル)」型天体と考えられている。
※2 CIコンドライト:太陽に最も近い化学組成を持つとされる始原的な隕石のグループ。水による強い変質(=水質変成)を受けており、有機物や水に富む鉱物が含まれる
※3 ギガパスカル(GPa):1GPaは約1万気圧に相当する。
※4 ラブルパイル:一度破壊された岩石が重力で再集合してできた天体構造。
※5 C型小惑星:太陽系内の小惑星の約8割を占める暗い天体。水を含む鉱物や炭素質の物質が多く、地球に落下した炭素質隕石と類似した組成を持つ。
その他
本研究は、「CIコンドライトを用いた衝撃実験に基づくリュウグウ粒子の衝撃変成評価」(第2回リュウグウ試料AO公募課題、代表:中橋徹)の承認のもとで実施されました。また、本研究の一部は、文部科学省科学研究費補助金(課題番号:18H01269)による支援を受けたほか、国立極地研究所の一般共同研究(課題番号:G6-14)の支援も受けています。さらに、物質・材料研究機構(NIMS)による「世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI-MANA)」および「NIMS連携拠点推進制度」の支援も受けています。
また、広島大学から論文掲載料の助成を受けています。
研究内容に関する問い合わせ先
大阪公立大学大学院理学研究科
准教授 瀬戸 雄介(せと ゆうすけ)
E-mail:seto.y[at]omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
報道に関する問い合わせ先
大阪公立大学 広報課
担当:谷
TEL:06-6967-1834
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
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